日本で唯一、本物の下水道管の中に入れる「小平市ふれあい下水道館」- 下水道の暗闇の中に見たものとは
こうしたオブジェを含め、この施設の展示は全体的にとてもユニークで、下水道の醸し出すちょっとネガティブなイメージを払拭する努力が感じられた。 順路は進み、地面から-9mの深さを示す表示のところまで来ると地層に変化があり、土に粒の大きな石が混ざるようになった。
火山灰質粘性土の関東ローム層が終わり、その下にある武蔵野礫層に入ったのだ。関東ローム層は約2万年前に訪れた氷期以前に、富士箱根火山から噴出した火山灰が堆積したものだというから、僕は今、第四紀更新世時代の地表まで潜ってきたことになる。 地下4階の展示室にはガラスケースがあり、中には様々な小便小僧や、トイレ、うんちなどにまつわるグッズや玩具、さらには海外の室内便器(おまる)などなどの“トイレグッズ”が展示されている。面白くて、じっくりと一つ一つ見入ってしまった。
■いざ下水道管へ。そこは未知の世界だった そしていよいよ到達した地下5階、-25m。 この奥に、実際に使われている下水道管の中に入って見学できるスペースがあるのだ。 自動ドアを通り室内に入った瞬間から、水の流れる音が聞こえてくる。室内をぐるっと周り、左手の順路へ。数段の階段を下りると水流音はさらに大きくなり、その奥が下水道管だった。
管の上には小さな橋がかけられていて、流れる下水の真上に立つことができる構造になっている。 恐る恐る、下水の流れの上に立ってみた。
ここまで歩いてきた館内はすべて空調が効いていて、快適な温度と湿度が保たれていたが、下水の上に立つと、強い湿気と生温かさを感じた。下に流れているやや緑色がかった水が、小平市のあらゆる家庭や道路の側溝などから流れてきた下水なのだと思うと、なんとも言い難い微妙な気持ちになった。
下水なのだから当然ではあるが、ニオイもきつい。家の風呂場や台所の排水溝を掃除するときに鼻腔をつくあのニオイを、5倍濃縮くらいにしたものだ。 しばらく晴れの続いた日に行ったので、足下を流れる下水の流れはそこまでの量ではなかったが、ゲリラ豪雨のときなどはかなりの濁流になるらしい。 最新の浄化技術や小平市の水環境の取り組みも紹介されている「小平市ふれあい下水道館」は、都市がさらに進化していく中で、持続可能な水環境をどう保つべきか、我々一人ひとりが果たせる役割は何かを考えさせられるものだった。 インフラは人々の生活と密接に結びついた大切な存在であることも実感できる。 なんて立派なことを考えつつ、下水の流れていく先の暗闇に目を凝らし、その奥に蠢くモノたちを探したのだが、もちろんそんなものはいるはずもないのだった。 ■ 佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売。
佐藤誠二朗