自衛隊「ミサイル大量購入」が予算消化に過ぎない訳
23式SAMは搭載艦を公表しないという不思議さがある。正式名は「23式艦対空誘導弾」であり護衛艦用の対空ミサイルであるが、どのタイプの護衛艦に搭載するのかは未公表だ。 これは、実は海自が搭載を嫌がっている可能性がある。彼らは日本製ミサイルがアメリカ製には及ばないことを知っている。だから国産を遠ざけようとしているようにも見える。 本当にほしい対空ミサイルは、アメリカ製のESSMブロック2だ。最も重要な超低空目標の迎撃では間違いなく優れており、近いうちに対艦攻撃モードも追加される。将来の改修キットが提供されるのも間違いない。
それからすれば、23式SAMの搭載艦は1、2隻にとどめる可能性もある。防衛省が開発したため、不採用ということは難しい。だから形ばかりの搭載艦を用意して採用したという体をとるだろう。そのうえでESSMブロック2の搭載を進めて国産品を事実上葬るやり方である。 そうなると23式は不良在庫になる。アメリカなら対艦ミサイルや標的に改造するかもしれないが日本はやらない。そうすると、対艦ミサイルや標的の新規発注数が減ってしまう。搭載艦があるうちに訓練や展示で撃ち尽くすしかない。
潜水艦誘導弾にもその可能性がある。これは敵国攻撃用のミサイルであり、アメリカが第三国へのトマホークの使用に難色を示したときの対策として製造を始めている。 ただ、わざわざ搭載艦を建造するかはあやしい。トマホークと互換でなければ、少なくとも魚雷発射管からの発射にも対応できなければ、これも葬ろうとするだろう。 ■目的は予算消化と枠確保 以上の問題は、防衛省自身も認識している。これらの問題こそ、今までミサイル購入数を絞ってきた理由でもあるからだ。
なぜ、それにもかかわらず大量購入を進めているのか。ミサイル不足を解消するだけではなく適正在庫を超える数を調達しようとしているのか。 それは、防衛費を消化できないという問題への対策である。防衛費の増額は金額先行、しかも政治先行で決まった。5年間で43兆円の支出もこつこつと積算した結果ではない。防衛省は与えられた金額を満たすことに汲々としている状態なのだ。 その解決のため、各項目とも予算額を無理に膨らませている。2025年予算であれば、先に決めた9兆円の金額に合わせて増額する形である。
ミサイル購入数を増加させるのも、その一環とみるべきだ。将来の不良在庫は承知している。ただ、大量購入しないと9兆円は消化できない。また、適切数の購入にとどめると弾薬以外のセクターに将来の予算枠を取られてしまう。そのような事情から不適切を承知のうえで計画を進めているのだ。
文谷 数重 :軍事ライター