なぜNBAラプターズの渡邊雄太は無保証の最低年俸契約から念願の本契約を勝ち取ることができたのか
攻撃力が大きく向上した一方で、守備も全く手を抜かない。14日のスパーズ戦では身長216センチの相手センターにスクリーンをかけられても怯むことなく相手ポイントガードに食らいついたしつこいディフェンスが、ESPNで人気のNBAのトークショー“The Jump“で取り上げられるなど、存在感はますます増している。 自己最多の21得点をマークしたマジック戦では、出場機会が少なかった2年目のポール・ワトソンもスリーポイントを8本成功させるなど自己最多の30得点。チャンスを待っていた二人の活躍にチームは大いに沸いた。それは、二人が努力を怠らなかった姿をチームメイトも知っているからで、ラプターズの主力フレッド・バンブリートは「これが、NBAの最高なところ。若い選手が初めて殻を破る瞬間を見られることだ。彼らがすごく熱心に練習している姿を見てきた。だから余計に嬉しい」と笑顔。「でもこれは、今後長く続くキャリアの始まりに過ぎない。僕はこれからも彼らにアグレッシブになれと言い続ける。なぜなら、彼らにとってああいう活躍をすることは、あの試合が最後ではないからだ」と今後も二人の背中を押し続けるつもりだ。 渡邊は「いつもチームメイトは僕の活躍を喜んでくれますし、僕が活躍すればもっと点を取りに行ってもいいんだぜ、みたいな感じのことを言ってくれたりします。そういうチームメイトがいてくれて本当に感謝しています」と言い、ワトソンは渡邊とともに活躍した試合後「チームメイトが僕より喜んでいた」と苦笑いを見せた。 そういうチームメイトがいること、そのチームメイトと一緒にこれからも戦っていきたいという気持ちは大きなモチベーションとなるはずだ。そして、そのために必要なことは、向上し続けること。これまでは、渡邊にどんなことが出来るかを見極め、欠けている部分を指摘し、それに応えることが出来るかを見てきた。 しかしこれからは、計算できる選手としての成長が求められる。 「しっかり向上できれば機会を与える。そしてその機会を最大限に生かせた時、引き続き育てていく。ラプターズのためにより良い選手になれるよう、より良いチームメイトになれるよう指導していく」 ナースHCは、きっぱりと言った。 正式契約のオファーがなく、見通しが立たなかったオフシーズンから今回の契約に至るまで「正直、もうやめたいというか、なんでこんなにやっているんだろう、じゃないですけど、逃げ出したくなる時ってたくさんありました」と渡邊は打ち明けた。 しかしそれらを乗り越え、今は目の前に道がある。自らを待ってくれているチームメイトもいる。だから進化し続けるだけだ。来季への挑戦は、すでに始まっている。 (文責・山脇明子/米国在住スポーツライター)