「排ガス対策・静か・高回転」 常識を覆したマツダのディーゼル
「ディーゼルってどうなの?」最近よく聞かれる質問である。「いかがなものか?」ではなく「ちょっと興味あるけど……」というニュアンスだ。石原慎太郎元都知事がペットボトルを振ってディーゼルの排気ガス問題をぶち上げたのは1999年。一度は致命的に激減したディーゼルだが、あれから15年、再び脚光を浴びている。 今回は、先行する欧州勢に一矢報いたマツダのディーゼルエンジン「スカイアクティブD」の話をしたいと思う。参考にしたのは沢村慎太朗著『午前零時の自動車評論7』文踊社刊である。また沢村氏にはこの原稿の執筆に当たってアドバイスもいただいた。
■なぜ欧州ではディーゼルが発達? 欧州では昔からディーゼルエンジン搭載の乗用車が売れていた。事情はいくつかある。ひとつは年間走行距離が日本より多いこと。もうひとつ、クルマの購入費用を勤め先が負担するというカンパニーカー節税制度の影響も無視できない。ちょうど日本の借り上げ社宅と同じ考え方で、現物支給によって雇用者と企業ともに節税するやり方だ。雇用者は累進的に上がる課税率を回避でき、企業はクルマの購入費を経費にできる。 しかし多少高くても会社持ちの購入費用と違って、ランニングコストは全額が雇用者の個人負担なので、燃費に対しての要求レベルが高いのである。そのため今やヴィッツやフィット・クラスのクルマまでディーゼルは当たり前。当然ラインナップにディーゼルが無ければ話にならない。そうした市場ニーズの差によって、日本はこれまでこの乗用ディーゼルでは遅れを取ってきた。 ところがマツダは先行する欧州勢が思いもつかなかった方法で新しいディーゼルエンジンを作り上げた。失礼ながら特別資金力に優れるわけでもないマツダが、底力が問われるエンジン開発でその快挙を成し遂げたのは身の丈をわきまえた戦略をしっかり立てたからだった。 ■うるさい・重い・回らない まずはディーゼルエンジンの特徴と仕組みから始めたい。ご存じの通りディーゼルはガラガラとうるさい。エンジンが重い。運転経験があればご存じの通り高回転は全然回らない。そして排気ガスの浄化度は現在でもガソリエンジンンに及ばない。ガソリンエンジンに比べて価格も高い。しかし一方で低速トルクがあって燃費が良い。まさに短所長所が混沌としているのだ。