「排ガス対策・静か・高回転」 常識を覆したマツダのディーゼル
PMについては「元から断つ」ことは諦めて、排気系統にフィルターを仕掛けて濾し取る。フィルターは当然ススが詰まるので、時々これを燃やして詰まりを取らなくてはならない。ここまではディーゼルの宿命なのだが、まだしつこい敵が蘇って来るから大変なのだ。 エンジンの効率を上げたり、運転条件が厳しくなると、燃焼制御で発生を止めたはずのNOxがまたぞろ発生するのである。このモグラ叩きをちゃんとやっておかないと現在の排ガス規制をパスできない。そこで排ガスからNOxを除去する高価な後処理装置も必要になる。あっちこっちに痛み止めの湿布薬をペタペタと貼って何とか規制値をクリアしているのが現在のディーゼルエンジンなのだ。そしてこの様々な後処理装置のコストこそが、エンジンの価格を押し上げる大きな原因となっている。 ■「前門の虎、後門の狼」と戦うマツダ ではなんとかして高価な後処理装置無しで排気ガス問題を解決できないのか? マツダにとってそれは深刻な問題だ。何故ならベンツやBMW、VWあたりの様に「色々付けたら高くなっちゃいました」が通らないからだ。前門にはプレミアムブランドのドイツ勢、後門には中国や韓国の安価なクルマがひしめいている。どちらの餌食にもならずにビジネスを成功させるには、安価で高性能という針の穴を通す出口しかない。しかしそれは先行各社が必死にトライしてきた「掘り尽くされた鉱脈」でもある。 マツダは圧縮を下げるという奇妙な設計を行った。さきほどガソリンエンジンに対するディーゼルのアドバンテージは圧縮の高さにあると書いたばかりである。そのメリットを捨てるとはどういうことなのか? 実は圧縮を落とせばNOxは確実に減るのだ。マツダはこれに加えて燃料の吹き方の高精細化に挑んだ。 具体的には噴霧の粒をより細かくし、ノズルの穴を増やし、一回の燃焼に対して、その開始から終了まで時間軸の中で常に最適になるように最大で9回に分けてコントロールするという超緻密制御を行うのだ。こうやってまず燃焼条件の厳しい時に合わせたNOx抑制エンジンの基本を構築する。