〈パリ五輪バスケ〉「レブロン、ヤバイです」八村塁が即答…オリンピック直前の親善試合でレブロン・ジェームズが見せた覚悟と代表ヘッドコーチが滲ませた自信
借りは倍にして返さなければ気が済まない男
合宿4日目、再びカーと話す機会があった。忙しいカーにできる問いは、ひとつかふたつ。これからパリオリンピックが終わるまで、何百、何千回と聞かれるであろう「優勝できそうか?」という問いは飲み込んだ。 日本からのお土産を無事渡すことができたので満足しようかと思ったが、再会した日に「家族は元気かい?」と聞かれ僕の家族のことは話したが、カーの家族のことは聞いていないことを思い出した。 「スティーブの家族は元気?」 見たことないほど目尻に深いシワを刻みながら、カーは嬉しそうに「先日、孫が生まれたばかりなんだ」と教えてくれた。そして続けた。 「パリには家族を連れて行くんだ」 その表情と言葉にカーの自信を垣間見た気がした。 現役時代、練習中にジョーダンと本気の殴り合いをしたエピソードを持つカー。ジョーダンにシュート力よりも先にその負けん気を評価された負けず嫌いが、愛する家族の前で、うつむく姿を見せるつもりなどないはずだ。 ラスベガス滞在を終え帰国。 再会の喜び、そして練習や親善試合を特等席で見学させてもらえたことのお礼のメールをカーに送った。その返信がとてもカーらしかった。 「昔、東京でおもてなししてもらったお返しができてよかったよ」 カーが忘れたはずはないだろう。東京でカーと出会った1996年。その年の冬、僕は家族でカーが住むシカゴの自宅を訪問し手厚く歓迎してもらっている。 ブルズの練習場のコートにも立たせてもらい、フィル・ジャクソンHCのサインがもらえるようにも取り計らってもらった。日本でもてなしたお礼など、28年前に十分すぎるほど返してもらっている。 それどころか、38歳になった僕がキャリア最終盤にいることは間違いないが、カーとの出会いがなければ、これほどのキャリアを歩めなかったことは間違いない。お礼をいくらしても足りないのは僕の方だ。 最後におもしろみの欠片もないパリオリンピックの優勝国予想をして、この文章を終わりたいと思う。 競る試合もあるだろう。ケガやファールトラブル、思いがけないアクシデントも起こるかもしれない。それでも、8月11日に行われるバスケットボール男子決勝後、表彰台の一番高い場所に立っているのはアメリカ代表だ。 アメリカ代表を率いるのは、昨年のワールドカップ準決勝で敗れた苦い経験を持ち、借りは倍にして返さなければ気が済まない男、スティーブ・カーなのだから。 取材/松井啓十郎 構成/水野光博
松井啓十郎
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