「10秒前を忘れても、喜びは残る」認知症高齢者が自分らしく生きる手段としての“はたらく” #老いる社会
医療現場においては、昨年から、アルツハイマー病で脳に溜まるたんぱく質を除去する新薬レカネマブが保険適用となった。この活用についても、その人がどう生きたいかに沿った判断が大事だと繁田医師は言う。 「薬への期待が高まっていますが、これは進行を止める治療ではなく、あくまで進行を遅らせるもの。メリットとデメリットを理解した上で選択することが大事です。例えば、副作用の可能性があることや、治療費が安価ではないこと、2週間に1度点滴を受ける必要がある一方で、進行の速さを2割か3割遅らせるという効果をどう考えるか。 ご家族からは『先生ならどうしますか?』とよく質問されます。今の僕なら『家族のために仕事を続ける必要があれば、治療を受けるかな。でも退職していたら治療を受けず、家族と長い旅行に行きたい』と答えるかもしれない。 何を大切にして生きたいかは、みんな違う。家族も私たち医師も、本人の意思を引き出すサポートをすることが大事だと思います。医師を選ぶ際にも、そのための情報提供を惜しまず、一緒に悩んでくれる人を選ぶことだと思います」
認知症の人たちとの接点を社会に埋め込んでいく
2024年1月、認知症基本法が施行。政府は「認知症施策推進基本計画」の素案において、「認知症になったら何もできなくなるのではなく、できること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間とつながりながら、役割を果たし、自分らしく暮らしたいという希望がある」という考え方を、まさに「新しい認知症観」として打ち出した。 100BLG代表の平田さんは語る。「従来の価値観をアップデートするためには、認知症の人とそうでない人の接点を、意識的に社会に埋め込んでいくことが必要です。例えば、はたらく活動以外に、学校や企業研修などで、認知症の人が日々リアルに感じていることを話す取り組みも少しずつ広がっています。今後は、さらに日常のあらゆる場面での接点を増やし、認知症の人たちが社会に混ざっていく仕組みづくりが必要です」 認知症になった後も、それぞれの人が持つ固有の価値を発揮しながら、当たり前に暮らす。その実現に向けて、社会全体の価値観や仕組みが今変わろうとしている。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 補足:本記事では、労働市場における賃金労働だけでなく、社会参加の一環として他者のために仕事をすることも働くこととして広義に捉え、「はたらく」とひらがな表記にしています。 ※ Boyle,P.A.,Buchman,A.S.,Wilson,R.S.,Yu,L.,Schneider,J.A.,&Bennett,D.A.(2012).Effect of purpose in life on the relation between Alzheimer disease pathologic changes on cognitive function in advanced age. Archives of General Psychiatry,69,499-504. 「#老いる社会」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2025年、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となります。また、さまざまなインフラが老朽化し、仕組みが制度疲労を起こすなど、日本社会全体が「老い」に向かっています。生じる課題にどう立ち向かえばよいのか、解説や事例を通じ、ユーザーとともに考えます。