「認知症となった親の実家どうすれば」その数221万戸、空き家に悩む人たちとその対策 #老いる社会
現在、認知症の人が所有する住宅は全国に221万戸もあるという。認知症になると高齢者施設などに入り、住んでいた家を出ることが多い。残った空き家を家族が処分したくても、本人の意思が確認できなければ契約できず、認知症の人では法的に契約行為ができない。こうした事情のもと、空き家が増え続けている。どういった対策が必要なのか、実際に認知症で困った家族を取材するとともに、専門家に対策を聞いた。(文・写真/ジャーナリスト・岩崎大輔/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
2016年から空き家という1400キロ離れた実家
「私は母の実家で苦労してるから、娘たちには“家じまい”の手間をかけさせたくないな……」 昨年12月、平田敦子さん(仮名・62)は1400キロの道のりを運転しながら何度もそう思った。 宮崎県延岡市の実家から埼玉県朝霞市の自宅マンションまでの道中でのこと。ミニバンの後部座席には実家から持ち出したステレオやレコード、パソコン4台、絵画全集20冊などが積まれていた。実家は2016年から空き家になっていた。 昨年10月、母親の文子さん(仮名・享年98)が老衰で亡くなった。文子さんの遺産が300万円ほどあり、葬式やお墓代は工面できたという。だが、平田さんが困っているのは家の扱いだ。
「8年前に母が高齢者施設に入居して家を空けました。それから実家はほぼ手つかずです。散らかったままの部屋が4つ、キッチンは食器もそのまま。本当はもっと早く売却など整理を進めたかったのですが、うまく進められませんでした」 進められなかったのには理由がある。母親が売却に反対し、その後、認知症になっていたためだ。 文子さんは高齢になっても自分で車を運転するほど元気に過ごしていた。変化が起きたのは2012年、87歳のときだ。軽い交通事故を起こし、運転免許証を返納した。その後、文子さんは急速に衰えだした。ひざを悪くして歩行が困難となり、要介護2に。一方、それまで文子さんと一緒に住んでいた平田さんは2013年5月、埼玉県へ引っ越すことになった。文子さんは一人暮らしになった。 文子さんに認知症の症状が出たのは2016年10月。調理中に火をつけたまま、その場を離れ、鍋をいくつも焦がした。近隣に住み、世話をしてくれていた叔母の名前も間違い始めた。毎月母親のもとを訪れていた平田さんも、一人暮らしはもう危ないと判断した。高齢者施設を叔母が手配し、2016年12月文子さんは施設に入居した。 この状況から、もうこの実家に母親が戻ることはない──平田さんはそう考え、家の名義人である文子さんに相談した。文子さんは当時90歳だった。