「10秒前を忘れても、喜びは残る」認知症高齢者が自分らしく生きる手段としての“はたらく” #老いる社会
これまでの道のりをJさんは振り返る。「看護の仕事も料理の仕事も、一生懸命やってきたなぁと、思い返すと何だか涙が出ます。なんで自分にあそこまでできたのか。もう一度心燃えるものに出合いたいという気持ちがあります。やっぱりこの年になると、気力が落ちて、そういう気持ちもどんどん失っていく気がして。自分のことがよくわからなくなるときもあるんです。でも、人間というのは、自分が心に決めたことは絶対にやれるもんだと思いますよ。だから、自分がやりたいと思ったことは、捨てずに持っとったほうがいい」。Jさんは確かなまなざしでそう話した。 最後に給料の使い道を尋ねると、ビアガーデンに行きたいと話すJさん。「やっぱりビールはジョッキで飲まなきゃ」という言葉に、周囲のスタッフたちがどっと笑った。
靴べら作りをする建設会社に勤めていた男性
「角がとがっていると痛いから、ちゃんと丸くしないとね」。そう言いながらシュッシュッと小刀で竹を削るのは、三村さん(88)。作っているのは、竹製の靴べらだ。 ここは、神奈川県相模原市にあるデイサービス施設「BLG相模原」。認知症の人たちが地域や社会、仲間とつながる活動の一環として、地域から依頼される仕事を有償ボランティアという形で請け負っている。仕事の内容は、地元の薬局やマンションの清掃、チラシのポスティング、近所の子どもたちが集う駄菓子屋の運営など。はたらいた分の謝礼は、月に数千円ほどメンバーそれぞれに支払われる。 現在三村さんは週2回ここに通って、ポスティングや清掃などをしている。靴べら作りは、1カ月前に他のメンバーが行っているのを見て、自分もやってみたいと始めた。今後、地域の公共施設や個人商店などでの販売を目指している。 「やっぱり物づくりは楽しいよ。作ったものでみんなが喜んでくれるのは嬉しいし、意欲がわいてくる。家にいたって、ぐで~として何もしないから。私にできることがあるなら、どんどん使ってほしい」と、三村さんは穏やかに笑う。