メルヘンなタイル画がユニーク!鋳物の街に佇む湧水の銭湯 内免湯(富山県高岡市)
【連載】ニッポン銭湯風土記
旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。 【画像】もっと写真を見る(15枚)
3 days in the town
4年ほど前、20年ほど住んだ神戸の東灘区の山すそから垂水区の海ぎわに引っ越した。その時、同じ神戸市内とはいえ、新しい「わが街」の風景や買い物先などがすごく新鮮でワクワクした。 考えてみれば、全国あちこちをいつもウロついている私だが、「住む」ということに関しては京阪神エリアから出たことがない。本当は日本各地のいろんな場所に引っ越して、新しい「わが街」の暮らしにワクワクしてみたいところだが、仕事の都合上そうもいかない。長期滞在も費用がかかる。 でも、せめて3日くらいなら……? そこで月に1回、どこかの街に安宿を見つけて3泊4日で「住む」ことにした。観光しない、グルメしない。普通に暮らす。仕事する。 幸い、本を作る仕事の大部分はパソコンと電源、Wi-Fiがあれば可能だ。知らない街で3日間のアナザー・ライフ。ふっふ~、我ながらいい思いつきではないか。
5月某日、高速バスで北陸へ
晴天の大阪駅前から高速バスに乗った。最初の「引っ越し先」は富山県の高岡市にした。北陸にはちょくちょく行くが、高岡は20年前に高岡大仏の近くに1泊しただけで、ほぼ未知の街である。 金沢で鉄道に乗り換え、県境を越えて高岡に着いた時はもう日暮れだった。20年前にはなかった立派な駅ビルを出ると……寒い! Tシャツにゴムゾーリは私だけだ。足早に歩いて数分の宿に入り、さっそくいちばん近くの銭湯、和倉湯に出かけた。 和倉湯は大柄で迫力あるレトロな外観。浴室には、雨晴(あまはらし)海岸から眺める立山連峰を描いたタイル絵がある。富山県を代表する景観だ。それを眺めながら入る湯はかなり熱く、44度かそれ以上あるかも。熱い湯につかってはカランの水かぶりをゆっくりと繰り返した。湯あがりの脱衣場もくつろげる。落ち着いた、よき風呂屋だ。 風呂あがり、来た時の寒さがうそのように消え去って、ちょうど良い涼しさ。夜道をぶらぶら歩くうちに旅の緊張が解け、今日から3日間この街で暮らすんだとの気分がじわっと湧いてきた。路面電車(万葉線)の線路をまたぎ、通りかかった居酒屋で、地魚の昆布締めをアテに一杯やってから宿へ帰った。ロビーでパソコンを広げ、缶ビールを飲みながら夜中の1時半ごろまで仕事した。