異国の店主と土地の味。/イラン料理店『ボルボル』
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、 料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) イランは、日本に比べて国土が広いですよね。ボルボルさんはどの地域で生まれ育ったのですか? 土井さんからのコメント。「5000年以上前から芸術文化を気付き上げてきたイラン。そんな国のお料理を日本人にも身近に感じられるようにボルボルさんが丁寧にお料理してくださっています。」 ボルボル・ホセイン(以下、ボルボル) テヘランという、800万人以上が住む首都です。イラン自体は確かに広いですが、国土の1/5以上は砂漠で、街と街の間も基本砂漠なんですよ。だから別の街へ行く時は、車か鉄道に乗って数時間かけて移動します。テヘランを経由して、北部のカスピ海と南西部のペルシャ湾までを結ぶ約1394kmのイラン縦貫鉄道もありますよ。通路を挟んで両側にベッド付きのコンパートメントがあって、車内は音楽も流れているし、ネットも使えるし、できたてのご飯と紅茶のサービスまであるんです。
土井 シベリア横断鉄道みたいで楽しそう! 砂漠の国から遥々日本にいらしたんですね。 ボルボル 日本人はイランのことをあまり知らないと思いますが、イランでは日本の映画とかドラマが人気です。黒澤明監督も有名だし、圧倒的一番人気は『おしん』。ワタシが学生だった頃に放送していたのですが、ドラマが始まる時間になるとみんな家に帰って、街から人がいなくなったくらい。そんなふうに若い時から日本の文化には触れていたので、いつか日本に行ってみたいという気持ちがありました。なので、学校を卒業して2年間兵役に行った後、思い切って来日を決めたんです。1990年だったかな。
土井 イランの方から『おしん』の話が出てくるとはびっくり。来日したばかりの頃は、どんなふうに過ごしていたんですか? ボルボル すぐにイタリアンレストランに就職しました。最初は日本語がわからないから、お皿洗いをすることからスタートして、徐々に料理もさせてもらって。他にも数軒のイタリアンレストランで修行して、15年くらいで日本語も料理も一通りマスターしたので、2004年にお店をオープンしました。イラン料理だけだと珍しすぎるので、はじめはイタリア料理もメニューに入れてお客さんに来てもらいやすいようにして、少しずつ今のイランスタイルに変えていきました。