鳥の雌雄関係:進化が作り出した利己的なオスとメス(濱尾章二/行動・生態研究者)
オオヨシキリでは複雑なさえずり(多くの種類の音を含むさえずり)をするオスほど、渡りを経て帰還する割合が高く優れた個体であることがわかっているが、メスはつがい相手のオスよりもさえずりが複雑なオスをつがい外交尾の相手に選ぶ。また、アマサギのメスは、集団営巣地内でつがい相手よりも優位なオスのつがい外交尾は受け入れるが、劣位なオスのつがい外交尾は拒否する。これらは、より優れた遺伝子を子に伝えようとするメスの姿といえよう。
シジュウカラは一つの巣に10個ほど産卵するが、約半数の巣でつがい外交尾によって受精したものが2~3個混じっているという。つがい相手の質と周囲にすんでいるオスの質を計った結果、半数のメスはつがい外交尾をしているわけだ。メスによるオスの選り好みはつがいになった後も続いている。
遺棄・子殺し――遺伝子を残すための奇異な行動
オスもメスも、少しでも多く子を残すために手段を選ばない様子が見えてきたと思う。ただ、彼らの姿は、多くの子を残すことにつながる行動をとったものの子孫が繁栄するという進化の力によって生み出されてきたものだ。 見方を変え、少し擬人的にいえば、厳しい野生の世界で可能な限りの手を使って、一所懸命に子を残しているということもできる。最後に、人間の倫理には合致しないがヒナの遺棄、そして子殺しという行動を紹介する。こんな行動も進化する場合があるのだ。
コサギやアマサギでは、ヒナがある程度大きくなるとつがい相手の一方がいなくなることがある。あるコサギの巣では大雨で一部のヒナが死亡したところメス親の皮膚に(発情を示す)婚姻色が現れ、数日後に巣からいなくなったという(残った2羽のヒナはオス親が育て上げた)。 このようにして、コサギでは巣の半数近くがメスによって遺棄される。育雛中期のヒナ数が少ない巣で遺棄が多いこと、2回目の繁殖が可能な早い時期に遺棄が起こることから、残されたオス1羽でもヒナを育て上げられると踏んだメスが早めに別のパートナーと繁殖するためにヒナを遺棄すると考えられている。