鳥の雌雄関係:進化が作り出した利己的なオスとメス(濱尾章二/行動・生態研究者)
オスはメスと違って、派手な羽の色や長い尾などの飾りを持っていることが多い。大声で複雑なさえずりをするのもオスだけである。メスはこれらの特徴からつがいの相手を選んでいる。メスの選り好みがオスの派手さを進化させたのだ。もっとも、カモ類やキジ類のメスがオスの金属光沢のある羽の色を見て「美しい」と感じたり、フウチョウ類のメスがオスの巧みなダンスを見て感動したりしているわけではない。 近年の研究から、メスは派手な飾りや求愛ダンス、さえずりによってオスを選んでおり、選ばれるオスは本当に質が高い優れた個体であるということがわかってきた。例えば、アメリカの野球チームの名前にもあるカージナル(和名ショウジョウコウカンチョウ)のオスは赤い色をしているが、鮮やかな色のオスほどメスに好まれる。また、鮮やかなオスほどなわばりを獲得したり子の世話をしたりする能力の高い優れた個体であることが明らかにされている。 赤色を生み出すのはカロテノイドという化学物質で、オスが鮮やかな赤色の羽をまとうにはカロテノイドを含む食物をたくさん摂らなくてはならない。また、目立つ色の羽では捕食者に見つかりやすくなってしまう。赤い羽をまとうのはマイナスが多い、生存上不利なことである。 しかし、そうであるからこそ、優れたオスでなければ鮮やかな赤い羽をまとうことはできない。あえて鮮やかな赤い色をしていることで、食物を獲得する能力や捕食者から逃れる能力が高いことを誇示できるのである。また、そうであればこそ、メスはそれを目印にしてオスを選んでいるのだ。 長い尾羽も複雑なさえずりも同じである。生存にはマイナスとなる、無駄にしんどいことをして、それでも元気に生きているということを示さないとオスは選んでもらえない。メスはそういうオスを好むことで子に優れた遺伝子を伝えているわけである。 メスが選ぶのはつがい相手だけではない。つがい外交尾をするときの相手もしっかり選んでいる。 例えば、メスが繁殖地に渡ってきたらすでに質の高いオスはつがいになっていて、質の低いオスとしかつがいになることができないなどということがある。このように「不本意な」相手とつがいになった場合、メスは子育てのパートナー(夫)とは別に子に遺伝子を送り込むオス(つがい外交尾の相手)を求める。