鳥の雌雄関係:進化が作り出した利己的なオスとメス(濱尾章二/行動・生態研究者)
ウグイスは数少ない一夫多妻の種の一つである。オスは春先になわばりを張ると、さえずりによってメスを誘う。 オスは、メスがなわばり内に定着すると交尾を行うが、巣作り、抱卵、育雛は一切手伝わず、次々と新たなメスを誘う。少なくとも6羽のメスを獲得したオスを、私は観察している。
メスだけでヒナが育つのか心配になるが、ヒナの餓死は見つかっていない(一部島嶼の個体群を除く)。ウグイスが営巣する藪には餌となる昆虫が豊富なため、メスだけで子育てが可能なのだと思われる。 オオヨシキリやコヨシキリはオスもヒナに餌を運ぶが、一部のオスは一夫多妻になる。彼らは、幸運にも2羽のメスを得られた場合、最初につがいになったメスの巣だけでヒナへの給餌を手伝う。 後からつがいになった2羽目のメスはオスの援助なしに子育てをせねばならず、1羽目のメスと同じように健康な子を多く育て上げることはできない。しかし、オスにとっては、一夫一妻で終わるよりも一夫多妻となったほうが多くの子を残すことができるというわけである。 一夫多妻のほかにも、オスが多くのメスを獲得する方法がある。つがいにはならず、交尾だけするという戦略だ。つまり、よそのつがいのメスと交尾をするつがい外交尾である。子育ては交尾をしたメスとそのつがい相手(夫)に任せてしまう。この方法であれば、一夫一妻の種のオスであっても実質一夫多妻となることが可能だ。 1990年代からDNA分析によってヒナの親を特定できるようになり、多くの鳥種でつがい外交尾の実態が明らかにされてきた。現在では、つがい外交尾による受精が見つからなかった種は2割ほどで、たいていの種でオスもメスもふつうにつがい外交尾を行うことがわかっている。
メスの戦略――相手を選び抜く
メスはオスと違って、多くの相手と交尾をしたからといって多くの子を残すことはできない。子の数は自分が産む卵の数で決まってしまうからだ。 メスが子孫の繁栄を図るには子の質を高くするほかない。厳しい野生の世界では、巣立ったヒナのうち大半は繁殖するに至らず死んでしまう。病気や寄生虫に強く、捕食者から逃れる能力を持つ、質の高い個体でなければ、生き残って子孫を残すことはできない。そのために、子に遺伝子を伝える父親として優れたものを選ぶというのがメスの戦略である。