立ち通し「MR」をなくせ! 大の大人を廊下に立たせて平気な病院のメンタリティーは非常識
Dr.イワケンの「感染症のリアル」
感染症の予防と治療などについて、神戸大学教授のイワケンこと岩田健太郎さんが解説します。 【図表】うつ病にならないためにやめておきたい七つのこと
みなさんは「MR(エムアール)」という呼称をご存じですか? 製薬会社の社員で、医師らに医薬品情報を提供するのが主な業務です。Medical Representativesの略で、以前は、「プロパーさん」などといわれていた時代もありました。多くは試験や実務を経て、認定を受けています。また、なかには薬剤師もいます。 https://www.mre.or.jp/whatsmr/ninteioutline/
だんだん減らされる傾向
2024年版「MR白書」によると、23年度のMRは4万6719人。13年が6万5752人でしたから、激減しています。薬剤師資格を持つMRも13年の6253人から23年は4158人と大幅なダウンです。同白書によると、MRの新卒採用を「しなかった」製薬企業が全体の64.3%でした。MRはだんだん減らされる傾向にあるのです。 https://www.mre.or.jp/files/co/page/attachment221201/mre_info/Investigation/whitepaper/2024/2024hakusyo31.pdf 米国でもMRの数は減っています。17年には14万6715人だったのが、21年は11万9349人になりました。 https://www.zippia.com/medical-sales-representative-jobs/trends/ 新型コロナのパンデミック時は、ほとんどの病院で面会者の厳しい制限が行われ、MRも病院訪問ができなくなりました。その代わり、リモート会議などで面会を行っていたのですが、コロナの制限も緩和され、またMRさんたちも現場に戻ってきました。
高価な弁当
いつも申し上げていることですが、製薬企業は医療における大切なリソースです。医薬品なしに基本的な医療は提供できません。製薬企業が健全な経営状態にあり、医薬品の製造販売を継続できることが医療の継続に不可欠なのです。近年は、医薬品の薬価が不合理なまでに低下したため、医薬品の質を担保できなくなっています。そのために製造工程でトラブルが発生し、医薬品の提供が滞りがちです。麻酔科が使う基本的な鎮静薬や鎮痛薬、抗生物質が入手、使用できなくなっています。これは大きな問題です。厚生労働省による抜本的な対応が不可欠です。 https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001311328.pdf というわけで、製薬企業は医療という大きな枠組みの中では「仲間」であり、協力して同じ方向を向いて仕事をしなければなりません。 しかし、製薬企業と医療現場(特に医師)が不適切な関係になりやすいのもまた事実です。製薬企業は利益を追求します。営利企業なのですから、それ自体は悪いことではありませんが、医師に不適切な医薬品使用を促すようになったら大問題です。 MRの業務は基本的に「情報提供」なのですが、現実には医薬品の説明会を開催する際に高価な弁当を聴衆に配ったり、講演者に対して報酬を支払い、自分たちの「商品」を褒めてもらおうと促したりしています。往時はMRによる過剰な接待と営業努力があったそうですが、近年の規制強化によってかつてほどのむちゃくちゃさはなくなっています。とはいえ、現在でも製薬企業の太鼓持ちみたいになった大学教授が多額の講演料をもらい、特定の医薬品を繰り返し「ヨイショ」する――。それを妄信した聴衆(医師)が売り上げアップに貢献するという構図はなくなっていません。感染症領域においてもこれは顕著です。 MRというのは医薬品情報提供の専門職です。例えば、図書館でいえば、司書さんのようなものです。読書大好き人間だった学生時代の僕は、図書館の司書さんに、いろいろな本のことを教えてもらうのが大好きでした。本来、情報提供の専門家はそういう専門業務に専念すべきなのです。それなのに、太鼓持ちのような営業活動をやったり、あるいは特定の大学教授を太鼓持ちに仕立てたりするのは大いに問題です。