鳥の雌雄関係:進化が作り出した利己的なオスとメス(濱尾章二/行動・生態研究者)
11月2日から東京・上野の国立科学博物館で開催される特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」。その監修者の1人である濱尾章二氏が興味深い鳥の世界を解説。
多くの鳥は一夫一妻のつがい関係を結び、雌雄共同で子育てをする。つがいの雌雄は仲がよく、協力し合っているように見える。しかし、つがいは仲がよいなどというのは人間の幻想にすぎず、オスとメスは相手を利用して、いわば利己的にふるまっている。 ギャラリー:特別展「鳥」の見どころ、世界の鳥が集結! 写真15点 鳥はオスもメスも、一羽だけでは子を残すことができない。受精が必要なだけではなく、両親で餌を運ばないとヒナを育て上げることのできない種が多いからだ。 体温を保つことのできない、ふ化後間もないヒナなどは、抱いて温めることと餌をとってきて与えることの両方が必要となる。一羽で世話をできるはずがない。自分の子を残すためには、パートナーとの共同作業が必要となる。「子はかすがい」のたとえの通り、子育てのためにつがいの絆が維持されるのである。
例えば、モズでは、巣で抱卵するメスにオスが餌をもってきて与える行動が見られる。この給餌によって、メスは巣を離れて餌探しに行く回数を減らし、抱卵を続けることができる。メスが巣を離れると卵が冷えてしまうだけでなく、丸見えになった無防備な卵が捕食者に襲われる可能性が高くなる。オスが確実に子を残すためには、メスが長く巣に留まるよう餌を運ぶのが正しい選択となる。 進化では、愛情などは関係なく、子を多く残す性質が広まっていく。協力や愛情という人間の見方を持ち出しては鳥たちの真の姿を知ることはできない。多くの鳥で浮気、不倫に相当する行動、時に子の遺棄や子殺しといった行動も進化している。これらの行動が状況によっては子を多く残すことにつながるからだ。厳しい自然の中で、環境に適応して形づくられてきた鳥の雌雄関係を見て行こう。
オスの戦略――より多くのメスを得る
オスでは、できるだけ多くのメスを得ることが多くの子を残すことに直結する。オスが目指すべきは一夫多妻ということになる。しかし、先に述べたように、メスとともにオス自身もヒナの世話をしなくてはならないという制約から、それを実現している鳥は少ない。