幸運だけではない!F1イタリアGPで大番狂わせが起きた裏側…なぜガスリーは初Vを果たせたのか?
メルセデスのトト・ウォルフ代表は「われわれがミスを犯したことは事実だが、ピットレーンが閉鎖されるという非常に珍しい事態の中で起きた不運なアクシデントだった」とチームとドライバーを擁護した。 しかし、その周にピットインしたのはハミルトンのほかにもう1人しかいなかったことを考えれば、ミスと言われても仕方はない。 そして、このビッグ3チームのトラブルやミスに乗じて、訪れたチャンスをものにしたのが、一度はビッグチームのシートを得ながら、成績不振でその座を奪われたガスリーだった。レッドブルの育成ドライバーだったガスリーは昨年、レッドブルに昇格したものの、思うような成績が残せず、姉妹チームで小規模チームのトロロッソのアルボンと交代させられていた。 それでも、ガスリーは挫けなかった。ビッグチームで得た経験で、小規模チームのトロロッソを牽引。昨年の終盤のブラジルGPでは、ハミルトンとサイド・バイ・サイドの激しいバトルを演じた末に競り勝ち、自身初の表彰台を獲得していた。その後、トロロッソはアルファタウリに改名。ガスリーはチームがあるイタリアに住居も移して、今年にかけていた。 ところが、シーズンは新型コロナの影響で開幕戦が中止に。ガスリーが住むイタリアも3月からロックダウンとなった。 それでも、ガスリーはあきらめなかった。ロックダウン中は中東のドバイでトレーニングを積み、いつ再開されてもいいよう準備を怠らなかった。こうして、7月に再開された2020年のF1で、ガスリーは開幕戦から入賞。ホンダの山本雅史氏(マネージングディレクター)も「今年のレースにかけるガスリーの思いは半端じゃなかった。その思いはシーズンが開始されてからも変わらず、一戦ごとにたくましくなっていきました」と語っていた中で迎えたのが、イタリアGPだった。 ガスリーの初優勝が単にビッグチームの脱落による幸運だけではなかったのは、レース終盤のカルロス・サインツ(マクラーレン)とのバトルを制していることでもわかる。 「1年前にトロロッソに戻ったとき、このチームで勝てるとは正直、思っていなかった。でも、レッドブルでの悔しさが僕を強くした。ここでもっと強くなるために、チームとともに努力し続けてきた。それが今日、報われたことがとてもうれしい」(ガスリー) F1にはビッグチームとそれ以外のチームの間に厳然とした格差があることは事実だ。しかし、ドライバーの差は、車体の差ほど大きくないことも、今回のガスリーの優勝で判明した。そして、レース後半、ビッグチームがまったくいない中で繰り広げられた優勝争いが、今年最も手に汗握る熱戦だったことは、今後のF1の在り方を考える良い機会になったのではないか。そうなれば、ガスリーが挙げたこの勝利は、一勝以上の価値があるものとなるだろう。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)