なぜF1日本GPは中止になったのか…欧州での再開を前に抱えている問題とは?
土壇場で開催が中止となった3月中旬のオーストラリアGPから3か月が過ぎ、F1は7月上旬からオーストリアGPを皮切りにシーズンを再開させることを決定した。ただし、それは異例の方法を採り入れての再開となる。6月2日にF1は再開される最初の8戦を発表した。まず、オーストリアGPの舞台であるレッドブル・リンクで7月5日と12日にダブルヘッダーを行い、その翌週にはハンガロリンクでハンガリーGPを開催。開幕から、いきなり3週連続開催となる。 2週間のインターバル後、8月2日と9日にはシルバーストーンでイギリスGPを含む2レースをダブルヘッダーで行い、続けて8月16日にはカタロニア・サーキットでスペインGPを開催。2度目の3週連続開催を消化した2週間後には8月30日のスパ・フランコルシャンでのベルギーGPとモンツァ・サーキットでのイタリアGPの2週連続開催が待っているという強行スケジュールだ。 F1には1カ国1開催という原則があるため、1カ国で2開催となるのは、5月にカタロニア・サーキット(バルセロナ)でスペインGPを、6月にバレンシアでヨーロッパGPという名称でレースを行った2012年のスペイン以来のこと。 ただし、今回のように同じサーキットで1年に2度F1を、しかも2週連続で開催するというのは長いF1の歴史の中でも初の試み。さらに、それをオーストリアとイギリスの2つの国で行うというのは異例中の異例だ。 こうした事態となった理由は公表されていないが、世界各国のテレビ局と契約を締結している莫大なテレビ放映権料を確保するためには、最低でも15戦を開催しなければならないという思惑がF1側にあることは間違いないだろう。
2020年のF1は、もともと22戦を予定していたのだから、1カ国2開催を行う必要はないように思えるが、新型コロナウイルス感染症の影響によって、いま世界中を転戦するF1のスケジュールは根本的に見直さなければならない状況となった。それにより国をまたいだ移動が極めて困難となったからである。 すでにヨーロッパのサッカーをはじめ世界各国でスポーツイベントが再開され始めているが、そのほとんどは国内リーグなどのドメスティックなイベントだ。 F1が今回、再開するレースの発表を最初の8戦だけにとどめたのも、それが関係していた。今回発表された8戦はすべてヨーロッパの国々で、原則として欧州連合(EU=ヨーロッパを中心に27カ国が加盟する政治経済同盟)内では、ほぼすべての加盟国からの出入国を認めている。 ただし、今回の新型コロナウイルス感染の中心はいまやヨーロッパや南北アメリカ大陸であるため、アジア諸国の多くがEU諸国に対して入国制限を設けているままだ。つまり、ヨーロッパラウンドを終えた後に控えているアジアラウンドを開催できる目処が立っていない。 そんな状況の中、鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドが6月12日、2020年の日本GPの開催中止を正式発表した。 「国内外における新型コロナウイルスの感染拡大状況や各地域での防止対策などを踏まえ、慎重に検討を重ねて参りましたが、現段階で海外からの渡航に関する規制解除の見通しが立っていない社会状況および国際的に大規模な移動を伴うイベントの特性を鑑み、開催中止を判断いたしました」(モビリティランド) 再開されるF1は少なくとも最初の3レースについて、無観客で行われることが決定している。さらにレースに参加できるチームスタッフの数も制限し、レースを運営するスタッフやテレビ中継するスタッフ以外は極力、入場できる人数を制限するとともに、入場者にはPCR検査を義務付けるなどして、サーキットで感染爆発が起こらないよう努力しながらの再開となる。それでも、1チーム50人として、それだけで500人。さらにテレビ中継スタッフやマーシャルを含めれば、レースを行うには少なくとも1000人以上のレース関係者がサーキットに足を運ぶこととなる。