「偏差値の話抜き」の教員会議、宿題削減… 長崎の公立伝統校が、進路指導を一変させたワケ
ありがちな「講演会」が生徒の手で一変
校内の風土を変える大きなきっかけになったのが、校外からゲストを招く講演会でした。同様の取り組みは多くの学校で行われていますが、企画や運営は学校主導で行うのが一般的です。 一方、諫早高校では、講演のテーマ選びから講師選定、登壇依頼、プログラム作成、当日の運営、事後学習までを生徒に委ねて運営をしています。 たとえば、AI開発の技術者を招いて議論を交わしたり、途上国の教育支援に取り組むNGO創業者から貧困問題について学んだり。多種多様なテーマが検討され、生徒の手によって実施されてきました。 「学校の中にはない多様な価値観との出合いが大きな刺激となり、熱量が段違いに高まりましたね。それだけ、生徒は主体性を発揮できる場を求めていたということだと思います」
「偏差値の話は抜き」の教員会議
生徒が主体性を発揮し、変化していく姿は、教師の意識をも変えていきます。その集大成が、教員同士で、成績や偏差値の話を抜きに生徒一人ひとりの素質を語る「キャリア検討会」です。 「生徒がさまざまな活躍を見せるようになったことで、偏差値以外で生徒の個性を多面的に理解し、支援することの必要性を実感したんです。『キャリア検討会』では、生徒が何を考え、どんなことに関心があるのかを共有し、それに対するサポート手段を話し合っています。 偏差値ベースでの進路会議は、どうしても『〇〇が苦手』と懸念をあげる場になりがちですが、この場は生徒の個性や良いところを話し合おうということでスタートしました」 キャリア検討会は、1年次の12月と2年次の10月に実施。積極的に自身の関心ごとに取り組む生徒に対しては、担当教師を決めて1対1で伴走する態勢を用意します。さらに、生徒の課題意識にこたえる人や場を紹介したり、大学での学びやキャリアプランを描くこともサポートしたりしているといいます。
大学受験でもチャレンジが増加
同校の改革が始まって今年で10年。いわゆる「受験指導」とは一線を画す取り組みながら、大学受験においても高い合格実績を上げ続けています。 それは数字のみならず、大学受験のプロセスや、生徒が受験に向かうマインドにも変化をもたらしました。 「難関大学の総合型選抜、自己推薦などの合格者が増えました。これらの入試方法では、筆記試験だけでなく、志望理由書や面接、小論文などで多面的な評価が行われます。主体性を発揮することがそのまま入試対策にもつながり、より人間的な成長を遂げる生徒が増えたように感じます」 また、安全志向ではなく、自分が学びたいことや、関心のあることに向けてチャレンジする生徒も増えたと言います。「受け身姿勢で受験に臨む生徒もずいぶん減ったと思います」と後田先生。着任時には想像もできなかった熱量が、今の諫早高校にはあります。