いびきで“睡眠離婚”や避難所ストレス…身近な社会問題にどう向き合うか?
重症化すると健康リスクのある「のどいびき」
「いびきには『鼻いびき』と『のどいびき』があります」と説明するのは、睡眠総合ケアクリニック代々木(東京)の井上雄一理事長だ。同クリニックには、睡眠の悩みを抱える人が年間約2500人訪れるという。 鼻いびきは、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などで鼻の息の通り道が狭くなって起きる。一方、のどいびきは、のどの筋肉が緩んだ時に気道が狭くなり、周りの組織が振動する。
「軽いいびきの段階では健康に影響はありません。ただ、のどいびきが重症化すると『睡眠時無呼吸症候群』という大きなリスクが潜む病気になります」 睡眠時無呼吸症候群は、寝ている時にのどの筋肉が緩み、舌の根の周辺などが落ち込み、気道をふさいでしまう疾患だ。そうなると一時的に呼吸が止まる状態が繰り返される。調査手法によって違いはあるが国内には500万人の潜在患者がいるとされる。 診断基準は「1時間に5回呼吸が止まれば無呼吸症候群」(井上理事長)。日本呼吸器学会のサイトによると、無呼吸と低呼吸が1時間に15回~30回なら中等症、30回以上だと重症と診断される。成人の無呼吸症候群の場合、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が健康な人の約3、4倍高くなる。重症の場合は心血管系疾患の発症リスクが約5倍にもなる。 実際に、かつて睡眠時無呼吸症候群が注目を集めたトラブルがあった。
2003年2月、JR山陽新幹線の運転士が運転中に約8分間居眠りし、JR岡山駅で本来の停止位置の約100メートル手前で自動列車制御装置が作動し、停車した事案だ。運転士はその後、睡眠時無呼吸症候群と診断された。この問題の後、国土交通省は交通事業者や運転者向けに対応マニュアルを策定した。 睡眠時無呼吸症候群の治療は、一般的に2種類ある。軽症の場合、マウスピースを使う。マウスピースをつけると、あごが数ミリ前に出る。それによって舌根が引き上げられ、気道が広がり、いびきが緩和される。重症の場合は、鼻に装着するCPAP(シーパップ)という装置を使う。眠っている間に鼻から気道へ圧力をかけた空気を送り込み、のどを広げて呼吸しやすくするという仕組みで、保険適用もされている。