ヒートアイランド現象から学ぶ、酷暑をサバイブする知恵
── 建物の構造を考える上で、地域全体の住みやすさを考慮すべきというということですね。そういう考え方自体、日本の自治体には反映されているのでしょうか? 最近は住宅街区を設計する段階で、ディベロッパーやデザイナーが考慮しているように感じます。また、ドイツ発祥の「風の道」という概念も、住宅街区の開発には重要な視点だと思いますね。
☆風の道とは 用途地域や建築物を計画的に配置することにより,自然の冷気流を用いて,都市の大気汚染物質をすみやかに吹き飛ばそうというものである.また同時に,日射による舗装面の蓄熱や人工排熱で熱くなった都市を冷やそうというねらいもある.(「シュトゥットガルトにおける「風の道」* 一都市計画で都市気候を制御する試み一 (https://metsoc.jp/tenki/pdf/1993/1993_09_0691.pdf) 一ノ瀬 俊明, p31, 1993)
以前、私が訪問したドイツのシュトゥットガルト市は、市街地が丘陵地帯で囲まれていて、すり鉢の底のような地域に人が集まっていました。周りが丘陵だと、昼間は空気が谷から山の斜面を登っていく流れになって、夜は逆になり、自然と空気の循環が起きるんですね。この街に限らず、ドイツでは、その現象を妨げるような建築を作らないようなルールがあります。 日本の場合は大都市が沿岸地帯にあるので、海からの風を遮らないように設計をするのが、日本版の風の道にあたります。 ヨーロッパのやり方は、内陸の長野や甲府に応用できると思います。 ── 他にも住宅街区の設計で工夫できることはあるんでしょうか? 街路樹を植えて緑陰を作るとか、 雨が降った後に一時的に土壌に雨水が溜まって、雨が止んだらジワジワと地面から蒸発が起きるような浸透型の舗装をするのもいいですね。本来すごく暑くなりそうな所の気温を抑えるための計画は、立てられる時代になってきています。 あとは、高齢者や子どもたちが日常生活で長い時間、炎天下を歩かなくていい環境を作ること。暑さから逃げられる工夫をすることが重要なんですね。 高齢化が進めば、暑さによるリスクも年々高まります。 そのリスクを想定して、都市の構造や機能の「更新」を考えるべきだと思います。例えば、病院に行くほどでもないけど気になる症状を相談できるような薬局を、あちこちに展開する。ある程度広く、冷房が効いていて、相談できる店員さんもいるドラッグストアのようなイメージですね。そうした場所は、暑い日に外出先で休めるポイントにもなるし、住みやすさの向上にも繋がりますよね。 ── 地域医療の視点でもありますね。住宅をどういう建物にして、どういう風に配置するかという計画だけでなく、人の動線や自然の摂理を生かした設計が暮らしやすさにつながると。 ライフスタイルを考慮することも含めて、まちづくりなはず。そういう意味でも、一人一人が健康的な生活を送ることが、めぐりめぐってヒートアイランド現象への適応策につながると思います。今すぐ暑さを下げることはできなくても、まだ取り入れられるセーフティーネット的な取り組みはあるんじゃないでしょうか。