《「またトラ」で起こる“食料危機”》トランプ氏再選で日本に流れ込む“リスクのあるアメリカ産食品” 日本で禁止されている農薬やホルモン剤が使われているケースも
農産物購入への圧力をかけてくる可能性
懸念すべきは、製造業だけではない。農産物でさらなる譲歩を迫られかねないという声もあがる。 「アメリカではいま、大都市で暮らすエリート層の生活はよくなっていますが、中間層や地方はまったく豊かになっていない。それどころか貧しくなっていて、トランプ氏は“メイク・アメリカ・グレート・アゲイン”を大義に、支持基盤である地方農業の利益を守ると主張しています。 実際、第1次政権でも、中国と関税額引き上げの応酬がありました。結果として、アメリカ国内で大豆が余るという事態になり、それを日本に“押しつけた”経緯があります。今回も、トランプ氏は自国のために、日本に農産物を購入するよう圧力をかけてくる可能性は充分あるでしょう」(柴山さん) 東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんも指摘する。 「トランプ前政権で、アメリカと中国の関係が悪化した2019年、中国はアメリカから買うはずだったとうもろこし約300万tの購入を拒否した。その最中に行われたG7サミット(主要7か国首脳会議)での日米首脳会談で、トランプ氏は安倍首相(当時)に日本に“肩代わり”するよう交渉してきました。日本はすでにおよそ1000万tのとうもろこしを購入しているにもかかわらず、その要請を受け入れたんです。 さらに、トランプ氏は2017年にTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を宣言し、日本と二国間での貿易交渉を進めることになりました。そこで、アメリカ産牛肉や乳製品、果物などの関税引き下げや輸入拡大を求めました。今回の選挙でトランプ氏が当選できたのはアメリカの農業界の強力な支援によるものが大きく、新政権でも農産物について前回以上に強気な交渉を迫ることが予想されます」 鈴木さんは、「すでにその動きは始まっている」と続ける。 「いま、生食用じゃがいもについてアメリカからの輸入を全面解禁、つまり制限をかけずに輸入するという方向での協議が始まる動きがあります。かねてよりアメリカはじゃがいもの輸出を要請しており、日本は2006年に期間限定でポテトチップ加工用のじゃがいもの輸出を受け入れ、2020年には通年での解禁を決めた経緯があります」 加工用のじゃがいもとは異なり、生食用じゃがいもには危険があるという。 「アメリカ産じゃがいもには線虫という重要病害虫がいるケースがあり、日本での被害拡大を危惧してこれまで輸入は認められてきませんでした。しかし、いまそれすらも“解禁”しようとする流れがあるばかりか、それにあたって使用される農薬を食品添加物扱いとして規制緩和するという案まで出ています」(鈴木さん) 実際、2021年には野上浩太郎農林水産相(当時)が、農林水産委員会で「輸入後に繁殖用として転用可能であり、それを経路として国内に病害虫が侵入するリスクが大きいことから、病害虫の侵入防止に向けて、科学的根拠に基づいて引き続きより慎重な検討を行っていく必要がある」と述べた。 じゃがいも、牛肉、とうもろこしのほかに、“圧力”をかけられそうなのが乳製品と米だ。 「日本は米、麦、肉、乳製品、砂糖について重要5品目として高い関税を維持して日本の生産者を守っています。トランプ氏がそれらの関税を下げるよう迫ったり、アメリカ産の購入量を増やすよう、交渉してくる可能性はあります。 日本の酪農はいま非常に厳しい状況で、手間もお金もかかるため利益が出なければすぐに廃業です。しかも、一度廃業したら、再開することは難しい。ですから政府は、しっかり生産者を守るよう警戒する必要があると思います」(柴山さん)