クマ駆除に「お前が死ね!」と抗議 愛護団体に現役ハンターが本音「究極的には分かり合えない」
秋田市内のスーパーで従業員を襲ったクマが3日間にわたって立てこもり
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。先月30日、秋田市内のスーパーで体長約1メートルのクマが従業員の男性を襲ってけがを負わせる事故が発生。クマはその後3日間にわたってスーパーの店内に立てこもり、今月2日になって箱わなで捕獲、駆除された。地方では住民の高齢化や過疎化によりクマの生息域拡大が懸念されているが、クマの駆除と保護とはどう折り合いをつけていくべきなのか。公益財団法人「知床財団」の職員として長年知床でヒグマの捕獲や防除対策などに従事、現在は独立し鳥獣対策コンサルタントとしてクマ問題の解決に尽力しているハンターで獣医師の石名坂豪氏に、クマと人の共存の在り方を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔) 【写真】クマに襲われ八つ裂きに…恐ろしさを物語る生物の残骸 知床財団は、北海道の斜里町の出資により1988年に設立(2006年に羅臼町も共同設立者として参画)。世界遺産知床の自然を守り、よりよい形で次世代に引き継いでいくためのさまざまな活動をしており、その一方で認定鳥獣捕獲等事業者として、国内で唯一銃によるヒグマ駆除を認められてきた事業者でもある(24年9月末時点)。石名坂氏は、そんな知床財団の職員として、道内でも特にヒグマ被害の多い知床地域で長年捕殺を含む総合的なヒグマ対策活動に従事。獣医師の資格も持ち、ハンター歴は26年、ヒグマの捕獲実績は30頭を超えるというベテランだ。昨年、独立して「野生動物被害対策クリニック北海道」を設立。現在は鳥獣対策コンサルタントとしてクマスプレー使用法の講習や市街地でのヒグマ対策などの研修講師を行う傍ら、北海道庁のヒグマ専門人材バンク登録者やNPO法人「エンヴィジョン環境保全事務所」の臨時スタッフとして、道内各地のヒグマやエゾシカの問題にも関わっている。 住宅地周辺だけでも羅臼町で年間100回、斜里町で年間800回もの出没がある一方、世界遺産・知床の貴重な観光資源でもあるヒグマ。知床の自然を守る財団の職員として、石名坂氏もこれまでに電気柵による防除やゴム弾などによる追い払い、麻酔銃を使っての捕獲後の移動放獣など、さまざまな非致死的手段も試みてきた。しかし、結局のところ問題行動が進んだ個体は、駆除をしなければ解決に至ることはないという。 「散々追い払いも試しましたが、結局獲らなきゃ終わらないんです。100回以上同じ個体を追い払ったこともありますが、DNAで個体識別して経過を追うと、大半の問題個体が結局2~3年後には駆除されています。人間のことも識別していて、住民や観光客のことは意にも介さず、追い払いを行う人間が来たときだけ逃げたりする。しまいにはゴム弾の有効射程距離も覚えてしまって、『どうせまたいつものちょっと痛いやつだろ? この距離なら撃たないだろ?』という様子でいるので、『悪いけど、今回は違うんだよ』と思いながらライフル銃で実弾を撃つんです」 現在、北海道内で完全な野生のヒグマやシカなどに対し麻酔銃を撃った経験のある獣医師は、石名坂氏を含めてわずか3人。麻酔で眠らせて山奥に逃がす奥山放獣などの措置はできないのだろうか。 「ヒグマ相手の場合、通常麻酔薬は劇薬指定の薬剤と麻薬指定の薬剤の2種類を混ぜる必要があり、基本的には獣医師や薬剤師、研究者でないと入手できません。麻酔銃の有効射程は30メートル。時速40キロ以上で走るクマにすれば、2~3秒で到達する距離です。また、必要量の麻酔薬を撃ち込んでも最低10分は動き続け、捕獲時に興奮していればそれだけ時間は伸びる。さらに山へ逃がすとなると、寝ているクマに目隠しをして手足を縛り、おりなどの運搬容器の中に運ぶわけですが、その作業を行う作業員のリスクが非常に大きい。また、奥山放獣といっても、何百キロも森だけが広がっているような場所ならともかく、北海道ですらどこでも、20~30キロも移動すれば民家に出れてしまうのが現実です。 麻酔銃を使うべき場面とは、猟銃が使えない住宅街のど真ん中などで、クマを寝かしたり動きを鈍らせてから安全に駆除するようなときであって、最終的には殺すべきだと私は考えています。これが絶滅危機に瀕している動物園から逃げたトラであればまた事情は違いますが、残念ながら種の保存という観点では、クマの命はトラより軽い。クマが増え続けているような現状で、それだけの人身死傷リスクをかけてまで1頭のクマを助けたいかというと、少なくとも私はやりたくありません。助けたいという方が、自ら率先してやる分には否定はしませんが……」