「ノアールであろうがなかろうが馳星周」7回目候補での直木賞に笑顔
第163回直木賞は、馳星周(はせ・せいしゅう)さんの「少年と犬」の受賞が決まった。15日夕、生まれ故郷の北海道・浦河町からリモート映像で記者会見に対応した馳さんは今の心境を聞かれて「受賞の知らせからこれ(会見)が始まるまで長かったです。滑った?」。直木賞ノミネートは実に7回目。会見の合間にはワイングラスで飲み物を口にするなど終始リラックスムードだった。 【動画】第163回 芥川賞に高山羽根子さんと遠野遥さん、直木賞に馳星周さん
「G1レースを勝ったように」地元も大喜び
「7回もノミネートされて、要するに6回落選している。身構えて受賞を待つというのはもういい。もちろんコロナ禍もあったが、めぐり合わせとして生まれ故郷で待つのも面白いんじゃないかと」 1965年生まれで96年に「不夜城」でデビューした馳さんは、いきなり直木賞候補に。それから7回目のノミネートとなった今作でついに受賞を果たした。 馳さんは昨夏から故郷の浦河町で数か月間過ごすようになったという。一緒に発表を待った地元の人たちは「みんな僕が競馬のG1レースを勝ったように喜んでくれている」と笑わせた。 受賞作は、家族の生活のために犯罪まがいの行為に手を染める男と、その男が拾った犬との物語。「不夜城」に代表されるような犯罪や暗黒街をテーマにしたノアール小説のイメージが強いとの指摘には、「30歳くらいでデビューして、若い時は『自分はノアールしか書かない』と思っていた。40半ばくらいからそういうこだわりがなくなってきて、そのときに書きたいものを書きたいように書くようになった。ノアールであろうがなかろうが、すべて馳星周の小説。それを評価してもらえた」と笑顔を見せた。 作中には、東日本大震災も登場する。「自然災害が日常になりつつある。それは多分、今の人間の暮らし方に起因しているんじゃないかという思いがある。俺たち人間はこれからどう生きるべきなのかを考えながら、小説を書いていくんだろうなと考えている」とここはシリアスモードに。世界で感染が広がる新型コロナウイルスなどによる感染症については「ウイルスに罪はない。出てくるきっかけは人間の貪欲さだと思っている」と断じる。 初ノミネートから23年。「直木賞を受賞するかしないかということを考えて小説を書いていたわけではない。『あの時取れていたら』とは考えませんし、そういうことを考える人は小説家になってはいけないと思う」ときっぱり答えた。 (取材・文:具志堅浩二)