「台湾」明記に中国の反発は抑制的 内在する日米の立場の違い
「関与できない」立場でやり過ごせるか
日本は第二次大戦後、米国との同盟関係を外交政策の基軸としつつ、米国以外の諸国とも友好関係を築いてきました。 ただ、台湾については日本と米国の立場は違っていました。米国は「台湾が中国の一部であるという中国の主張に異論は唱えない。ただ、中国と台湾は台湾問題を平和的に解決すべきである」との立場を取りました。そして、台湾有事の場合、つまり中国が台湾を武力で統一しようとするならば、米国は武力で阻止することがあり得るとする「台湾関係法」を1979年に制定しました。 一方の日本は、1972年の日中国交正常化の際に、単純化して言えば、「日本は敗戦の結果、台湾を放棄したので台湾がどの国の領土かは言えない。だから中国の主張を認めることはできないが、かといって反対するのでもない。大戦の連合国で決めればよい」という立場を取ったのです。 この日米の立場の違いは、これまで問題になることはありませんでした。しかし、米国と中国が台湾をめぐって対立し、万が一、台湾有事の事態になった場合、米国は日本に協力を求めてくることがあり得ます。その場合に、日本は「関与できない」という立場を振りかざすだけでやり過ごすことができるのか、問題になり得ます。
台湾から約170キロと至近距離にある尖閣諸島(沖縄本島からは約410キロ)については、米国は日米安保条約に従って防衛の義務があることを繰り返し確認してくれています。その米国が、台湾の平和と安定を維持するために行動せざるを得なくなったときに、日本は「関係ありません」と言い続けることは難しいのではないかと考えられます。 日本としては、今後も米国との同盟関係を維持していくのは当然ですが、米中の対立がさらに激化すれば、第二次大戦後70年以上変わらなかった東アジアの国際政治・安全保障の秩序も変化してくる可能性があります。いたずらに危機感をあおるのは慎まなければなりませんが、中国の発展が誰も予想しえなかった変化をもたらす可能性がないとは言えません。米中対立に挟まれた日本外交の今後のかじ取りはますます困難になるのではないかと思われます。
------------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹