障害ある子の散髪断られた親 「誰も悪くない」心のよりどころとなる“訪問美容師” #令和に働く
お客さんの喜ぶ顔に日々やりがいを感じる
「お子さんに障がいがあったり、慣れない場所で大泣きする姿を見たりすると、美容室という選択肢が遠のいてしまう」そんな家族の心の拠り所となっているのが水沢さんとnanairoなのだ。 ある日、水沢さんは自閉症の5歳の男の子を持つ親御さんからの相談を受けた。感覚が過敏なその男の子は、美容室で髪を切ってるときは泣いて暴れてしまう。また、動いたら危ないということから「切れない」と断られることもある。周りの目も気にしてしまいどうしようかと考えていた親御さんの話を聞き、水沢さんは家族のもとへ向かった。 水沢さんに相談した理由について「訪問美容でも子どもは対応していなかったり、徐々に美容院にも慣れるから、と切ってもらえなかったりする場合もある」と苦悩を明かすお母さん。 「でも、お母さんたちって、本当にいろいろ調べて、いろいろな策つかって、それでもダメなのに、徐々に美容院に慣れていく先が見えなくて、悩んでいる人がたくさんいるんです」と実情を訴える。 カット当日は、暴れないようにお父さんに協力してもらいながら施術することに。「ハサミは危ないのでバリカン一本で切ります。でも坊主にはしません。かっこよくします!」と言った水沢さんは、男の子がどんなに動いてもしっかりと切り終えた。 親御さんも「よかった」と安堵の表情を見せた。 「親御さんたちは断られること、謝ることが、当たり前になってしまってますが、だれも悪くないんです。だから少しでも、そのお手伝いがしたいと私は思ってます」 利用者の喜びが水沢さんの訪問美容へのやりがいを感じる瞬間なのだ。 水沢さん自身も利用者やその家族、環境から学ぶことも多く「病気への考え方や、障がいのある子をもつ親御さんの気持ち、地域によって違う障がいへの取り組みなど、訪問のたびにまだまだ学ぶことがたくさんあるなと自分を奮い立たせています」と話してくれた。
訪問美容とともに店舗での対応も
訪問美容から展開し、店舗をオープンした水沢さん。その理由は3つあった。 1つ目は、利用したいけど家庭の事情で訪問美容師をお家に呼ぶことができない家庭のため。 店舗まで来ることができれば、水沢さんの施術を受けることができる。 2つ目は利用する方のステップアップのため。 最初は訪問美容でヘアカットすることに抵抗があったお子さんも、回を重ねて経験していくことで徐々に慣れ、座ってヘアカットできるようになる場合もあるという。 まずは安心できる自宅で水沢さんとの信頼関係を作るところから始め、髪を切ってもらうことに慣れた子どもたちが次のステップで美容室でカットしてみる。そんなチャレンジを応援し、ひとつずつ段階をクリアしていく。外へ出かける意欲をはぐくむ場所としても水沢さんとnanairoはひと役かっているのだ。 3つ目は、水沢さん自身も経験しているママの働き方にアプローチするため。 医療ケアを必要とする子どものママたちは、働きたくても時間の制限があり働けないことも多い。そんなママたちの働きたいという気持ちがかなえられるシェアサロンのような空間にできたらと水沢さんは語る。 「美容師の資格を持つママに、短時間だけ時間貸しのスペースとして使ってもらったり、短時間勤務の枠をもうけて、その間のお客様を施術してもらったりできたらいいなと思います」とさまざまな構想があるようだ。 また、訪問美容に興味のある方に集まってもらう場をつくることも考えている。「ベッドや車椅子カットの知識をつけてもらい、施設にお伺いさせていただいたり…。できたらいいなぁと考えています」と語ってくれた。 自らの経験をもとに幅広い視野で、訪問美容を利用する方からその家族まで包み込む。そんな温かい人柄がうかがえる。