障害ある子の散髪断られた親 「誰も悪くない」心のよりどころとなる“訪問美容師” #令和に働く
さまざまな事情があり、美容室への来店が叶わない方のニーズに添った「訪問美容サービス」について知っているだろうか。 【写真3枚】訪問美容師として仕事風景 利用者は介護が必要な高齢者や、新しい環境ではパニックを起こしてしまう自閉症の子どもなどだ。美容師の水沢彩音さんは訪問美容nanairo(なないろ)でサービスを始め、今では月100人前後に施術している。始めたきっかけは、障がいのある息子の髪をカットしたことだった。 「誰もが『かっこいい・かわいい』を当たり前にしたい」。水沢さんの思いと、訪問美容師の仕事に迫った。
訪問美容ってどんなサービス?
訪問美容とは高齢、疾病、妊娠中などの理由により外出ができない方のために、美容師や理容師が家庭や施設に訪問し施術を行う美容サービスのこと。 水沢さんは専門学校卒業後、9年間美容室で正社員として勤務していた。休暇を利用して訪問美容についての講習に通い、今では月に100人前後の利用者を抱える訪問美容師だ。 そんな水沢さんが訪問美容を始めたのには、理由があった。水沢さんにはダウン症と重い合併症のある息子がいる。息子は産まれたときからそれらの障がいがあり、医療ケアの必要な重症心身障がい児だった。 息子が医療ケアのための長期入院中に髪が伸びてしまい 「髪を切ってあげたい」という思いから、病院で髪をカットしたことが始まりだった。 話を聞いた他の患者さんのお母さんから「自分の子の髪も切ってほしい」と頼まれたことで、ベッドの上での施術を必要としている人がまだまだいるのではないか…と訪問美容について目を向けた。 長期の入院や日々の医療ケアが必要な息子を育てながら、美容の仕事を続けたいと思っていた水沢さん。しかし、美容室での長時間の勤務には限界を感じており、短時間でも自分にできる仕事をと模索した結果が現在のnanairoの始まりだった。
どんな方の利用が多い?
訪問美容nanairoは、 ・高齢・疾病・妊娠中などの理由で外出が困難な方 ・家族の介護や乳幼児の育児により外出ができない方 ・発達障害や自閉症のため、初めての場所に抵抗がある方 ・家族の介護や乳幼児の育児のため、その兄弟を美容室に連れていくことができない方 など、美容室に直接出向くことが難しい方や、美容室のような初めての場所に強い抵抗感を感じる方が利用しており、当事者とその家族の大きな支えになっている。 自宅訪問だけではなく、重度障がい者施設なども訪問してサービスを提供している。重度障がい者の施設ではどこに散髪を頼んでいいかわからず、施設内の看護師が利用者の髪を切っている施設も多いのだとか。実際に水沢さんがサービスを提供している施設も、訪問美容のサービスを知る前はそうだった。 しかし美容師ではない人が散髪をするとなると、男の子は坊主しかできない、女の子は長さを切るだけで量が多いなど、できることが限られてしまう。nanairoは、そんな悩みを解決したいたくさんの方の美容への悩みのよりどころとなっている。 自身の経験をふまえて、幅広い利用者の方にサービス提供をしている水沢さんは「寝たきりの生活を送っていても、外に出ることがなくても、モヒカンにしたり、ツーブロックにしたり、量を軽くしたり、前髪を作ったり。可愛いかっこいい、衛生的にもいい髪型を提供できる。そこが、とても喜んでいただけます」と言う。 たくさんの方が喜びを感じて施術を望む理由には、何より水沢さんの人柄と利用者の方への思いの強さがあってのことだろう。