「はしゃぎたい人と静かに見たい人で席を分けて」――コロナ以降のライブ鑑賞、ファンの心境変化
ソーシャルディスタンスで、ヘドバンしても人に当たらない
「コロナ禍でも秩序とマナーを守って見ていたのに、世間から目の敵にされたのは悲しかったですね」と振り返るのは、ライブハウス通いをライフワークにしているカオリさん(50代女性・仮名)だ。もともとELLEGARDENが好きで、現在はビジュアル系バンド・Leetspeak monstersのライブを中心に、フェスにも通っている。「ガンガン前に行って、最前列で見るタイプ」で、モッシュやダイブも楽しむという。 「コロナ禍では、モッシュにしてもエリアが決まっていて、抽選で当たった人だけがそこに入れて、外れた人は外側の座席。当然マスクも着用していますし、座席もひとつ置きになっているなど徹底しています。ビジュアル系のライブもそうで、定員を減らし、ソーシャルディスタンスをキープしながら見ているので、人との接触がない。みんな『この枠やラインから出ない』という決まりをちゃんと守っていて、ヘドバンしても当たらないんです。フェスの写真を撮っては『こんなに密に!』と報道するメディアもありましたが、誰かがコロナになったらバンドに迷惑をかけてしまうからと、観客はすごく気をつけていました」 声出しが解禁された現在について聞くと、「いまだにこわごわ出しているところがあります」とカオリさん。 「昨年行ったMAN WITH A MISSIONのライブでは声出しが25%までOK(声を出せる時間が1曲当たり25%程度)だったんですが、『25%ってどのくらい?』とか(笑)。とはいえ今までは、メンバーがギャグを言っても拍手するだけというシュールな感じだったので、声が戻ったのはいいなと思いました。メンバーも高揚しているのがわかるし、それを見たこちらも沸きますから」
平均して月に4回のペースでライブに通っているカオリさんだが、近頃思うことがあるという。 「ひとつは、自分が以前の感覚に戻れるのかなということ。コロナ前はワーッと前に行ってモッシュして盛り上がっていましたが、いま汗と人波にもまれながら1時間半がんばれるかどうか……。先日、ステージからメンバーがダイブしている数年前のライブ映像を見たのですが、遠い昔のことのようでした(笑)。あとはフェスの客層の変化ですね。これはコロナ前からあったことですが、フェスのルールを知らない若い人たちが、ステージ前やモッシュゾーンに行くことが増えているんです。それで『押さないでください!』と、従来のファンが苦情を言われたり。万一ケガ人でも出たらフェス自体が問題視されてしまうので、私たちも気をつけなくてはと思っています」 そのアーティストが、ライブが好きだから、規制にも従うし、ルールも守る。カオリさんはこう語る。 「ライブがない人生は考えられない。私はライブに行くために働いているようなものです。コロナ禍でチケットの払い戻しをしている時、何のために仕事してるんだろうと思いました」 冒頭のアンケートでは「同じアーティストが好きで見に来ているから周りの人との思いやり、助け合いを大切にしたい」「ライブがあるだけで幸せ。コロナ禍でよくわかりました」という声も寄せられた。 日々の生活と共にあるエンターテインメント。ファンの思いを受け止めて、試行錯誤は続いていく。