川崎フロンターレは「ちゃんと負けて」いないから難しい。試合終了までの、それぞれの思い「またか」「終わったと…」【コラム】
瀬川の1トップ起用の裏には「彼の頭の良さで勝負できる」
「今日も先制できて、さらに2点目も取れましたけど、その後にすぐ失点してしまった。すべてを改善できるものじゃない、と思いながらも、それでも自分たちから崩れることなく、みんなと『リードしている状況には変わりない』と声をかけ合いながら、ただまだ時間は長かったので3点目を取りにいったんですけど…」 しかし、次のゴールをあげたのは柏だった。エンドが変わった67分。柏が放った左CKのこぼれ球が右サイドのスペースへ流れる。足が止まりかけていたからか、川崎の選手が誰も詰めていかない。慌てた脇坂がボールとの間合いを詰め、最後はスライディングで阻止しようとしたが間に合わなかった。 MF山田雄士があげた絶妙のクロスに、ファーで反応したのはFW垣田裕暉。鹿島アントラーズから4日に完全移籍で加入し、初先発した垣田が頭で決めた今シーズン初ゴールが試合を振り出しに戻した。 下を向きかねない苦境で、しかし、鬼木監督が70分に見せた選手交代が川崎を鼓舞した。 DF三浦颯太とMF大島僚太、MF山本悠樹とMF瀬古樹、そしてFW山田新とMF瀬川祐輔の3枚替え。さらに瀬川は1トップに入り、家長に代わって64分に投入されていたFW小林悠をそのまま右サイドでプレーさせた。小林の1トップも考えながら、思いとどまった意図を指揮官はこう明かす。 「前線からの守備のスイッチが入りづらくなっていたのと、相手の背後に行くパワーが減ってきていたので瀬川をあの位置で使いました。(小林)悠が右サイドにいれば攻撃でも守備でも相手のストロングを消しながら、自分でゴール前に入っていくところや時間を作るところで、彼の頭のよさで勝負できる、と」 最前線の真ん中というポジションに驚いた瀬川は、すぐに鬼木監督の意図を感じ取っている。
アディショナルタイムの最大の試練
「今週の練習の感じでは、(脇坂)泰斗のポジション(トップ下)か、そっちのサイド(右)のどちらかだと思っていましたけど。それでも攻撃でも守備でも、自分がもっているものを出そう、と」 後方からは大島と瀬古のダブルボランチ、右サイドでは小林、前線では瀬川と、交代で入った選手たちが新たなパワーを与えてくれる。何がなんでも勝つ、というベンチの意思に脇坂も奮い立たされた。 「再びパワーが必要になった状況で、交代選手を含めてチーム全体で、というメッセージを感じました」 メッセージに対する一発回答が、5人が連動した末に脇坂が決めた79分の勝ち越しゴールだった。しかし、勝利の女神は簡単には微笑んでくれない。それどころか、最後に最大の試練を川崎に与えた。 柏のFW小屋松知哉が右角あたりから、川崎のペナルティーエリア内へ侵入した直後の90分。小屋松が切り返したボールが、ボランチから左サイドバックに回っていた橘田健人の右手に当たってしまった。VARの介入と中村太主審によるOFR(オン・フィールド・レビュー)をへて判定が変更され、柏にPKが与えられた。 時計の針は8分と表示されたアディショナルタイムの94分になっていた。勝利への思いとともに、小林から「絶対に止めてくれ」と願いを託されていた守護神、チョン・ソンリョンは心憎いほど冷静だった。