川崎フロンターレは「ちゃんと負けて」いないから難しい。試合終了までの、それぞれの思い「またか」「終わったと…」【コラム】
「またか…」「終わったと思った」
「PKやFKの情報を石野(智顕)ゴールキーパーコーチがいつも共有してくれて、今日も(マテウス・)サヴィオ選手が、僕から見て真ん中か左にPKを蹴ってくると試合前に伝えられていました。なので、ほんの少しだけ左を空けておいて、本当に最後の最後まで我慢して、先に飛ばないようにしました」 キッカーのMFマテウス・サヴィオはデータ通りに、ソンリョンから見て左側を狙ってきた。しかも、コースがやや甘い。ソンリョンが完璧にセーブして同点とされるピンチをしのげば、右サイドにこぼれ球を拾ったDF川口尚紀を猛然とチェック。クロスを右CKへと変えたのは、PKを取られた橘田だった。 中村主審の判定がPKに変わった瞬間に何を思ったのか。脇坂はこんな言葉を残している。 「なったものはもうしょうがないので、あとはソンリョンさんを信じよう、と。ただ、ソンリョンさんが止めても相手に詰められて、ゴールされたらどうしようもない。それだけをみんなへ声がけしていた」 キャプテンの檄が通じた証が、前述した橘田が見舞った川口へのブロック。右サイドバックのファンウェルメスケルケン際も、心の片隅で「正直、またか」と観念しかけながら、すぐに顔をあげたと振り返る。 「今日こそは絶対に勝つんだ、というみんなの強い思いがずっとあったので」 そして、最終的には10分を超えたアディショナルタイムの末に、7試合ぶりとなる勝利を告げる中村主審のホイッスルが敵地の夜空へ鳴り響いた。真っ先にソンリョンに抱きついたのは橘田だった。 「ソンさんには『ありがとう』と言いました。PKになった瞬間は『終わった』と思ったので」 ヒーローインタビューにも呼ばれた脇坂は、勝利した瞬間に抱いた思いを次のように明かしている。
「彼らだけに任せないように…」
「ここからだな、という思いが一番強かったですね。ソンリョンさんのセーブでそこで救われた気持ちがすごく大きかったですし、それこそチーム全員でつかんだ勝利だった、という感じなので」 危機を救ったソンリョンだけではない。先発した家長が、途中出場の小林や大島が必死に走り、守備でも体を張り続けた。鬼木監督も勝ち越した直後の81分に、足がつったマルシーニョに代わる最後の交代カードであえてFW山内日向汰を投入し、守りを固めるのではなく攻めるというメッセージを送った。 J1リーグを最終節での逆転劇で制し、悲願の初タイトルを獲得したのが2017シーズン。これまでに手にした7つのタイトルすべてを知る選手たちや指揮官が見せた執念に、脇坂は思いを新たにする。 「ベテランの選手たちは、ここまで経験してきたものが他の選手たちとはまったく違うし、それらを日々チームに対して還元してくれている。その姿は本当に頼もしいですけど、だからといって彼らだけに任せないようにしなきゃいけない。僕ら中堅や若手が、もっともっと勢いをつけていけるようにしないと」 待望の勝利を手にしたものの、順位は14位で変わらない。キックオフ前の段階で川崎よりも下位だったアルビレックス新潟と湘南ベルマーレ、京都サンガF.C.もすべて勝ったために勝ち点差も変わらない。自動降格圏の18位のジュビロ磐田との勝ち点差も4ポイントと、まだまだ油断できない戦いが続く。 それでも、開幕から続いてきた悪い流れをようやく断ちきった、という手応えがあるからだろう。脇坂は「今後につながる勝ち点3だと思う」と静かに語った。21日から入った中断期間で、いいムードでさらなる調整を積み重ねられる状況も整った。中断明けの初戦は8月7日。ホームのUvanceとどろきスタジアム by Fujitsuに昨シーズンの王者・ヴィッセル神戸を迎える第25節で、遅ればせながら今シーズン初の連勝を目指す。 (取材・文:藤江直人)
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