経血漏れで試合敗退の事例も――現場から変える、女子柔道界の月経問題 #性のギモン
月経について知らないのは、中高生の男子も同様だった。 「中学生くらいの男の子だと月経について深く理解していない子がほとんどです。ましてや経血が下ばきに漏れ出てしまうくらい排出されることなど知りません。ですから、それによって困ることも起きるんですね。例えば、ある男の子が、女の子の下ばきを見て『お尻のところが茶色くなってるよ』と教えたそうです。男の子は経血の染みを木製のベンチの色が移ったものと勘違いしたようなんですね。その男の子に悪気はないので仕方ないことなのですが、女の子としてはそれがすごく恥ずかしくて、練習に来なくなったという話を実際に聞いたりするわけです」 折しもハンドブック製作当時は、全日本柔道連盟の個人登録者数が15万人を割った頃(2018年)。柔道人口の減少に一層の懸念が生じていた。こんなことでは女子はますます柔道から離れてしまう。女子が安心して柔道に取り組める環境を整えなければ。危機感を募らせた川原さんは活動を活発化。あちこちの大会やイベントに出かけていってはハンドブックを配り、SNSや動画配信サイトを使って情報を発信した。 例えば、月経と減量の関係について。柔道は階級制であることから減量をする選手が少なくないが、無理な減量は無月経(3カ月以上、月経が止まっている状態)の原因になり、疲労骨折を誘発するだけでなく、将来的に妊娠が難しくなったり、骨粗鬆症になったりするリスクが高まる。こういった柔道の現場で見過ごされてきた問題も伝えていった。
2019年から始めた小学生の女子を対象にした試合でも、情報提供の機会を設けた。毎回、全試合終了後、全参加者を対象に「女子の身体とコンディショニング」に関する講習会を実施している。講習会担当の金子祥子さん(善柔会田代道場)はこう話す。 「最近は4年生くらいで初潮を迎える子も多いので、月経については早い段階から具体的に伝える必要があると考えています。今年は経血漏れがどういう状態になるかがわかるよう、公式キャラクターの下ばきに赤い染みをつけ、月経中にはこういうことが起きることがあるよ、柔道衣は白いから血の色が目立って見えるよ、ということをリアルに再現してみました。月経の基本について教えてもらうことはあっても、経血漏れについて具体的に教えてもらう機会はあまりないと思うので、はっきりとわかるように」 会場には指導者や保護者もいる。大人と子ども、それぞれに情報が届くよう、講習会は明るくオープンな雰囲気で行うことを心がけているという。 「月経は隠すことではないし、恥ずかしいことではないということを伝えたいんです。子どもたちには月経について知っておくことは、大人になるうえで必要なことだと理解してもらうことが大切だと思っています」