経血漏れで試合敗退の事例も――現場から変える、女子柔道界の月経問題 #性のギモン
タブーから共有へ。集まって初めてわかった現場での困りごと
こうした月経に関する困りごとを、現場レベルで解決していこうと動き出している人たちがいる。 埼玉県女子柔道振興委員会のメンバーだ。同委員会は、埼玉県柔道連盟内の専門委員会のひとつとして2017年に発足。川原久乃委員長(埼玉県立武道館/平成国際大女子柔道部コーチ)を中心に、県内15地区から指導者資格を持つ女性柔道家が集まって立ち上げられた。活動の方向性は、最初のミーティングで決まった。 「今、現場で何が必要?という話をしたら、口々に挙がったことのひとつが月経についてでした。皆さん、町道場や部活の指導者たちですが、教え子の中に生理痛や周期の乱れが原因で思いきり柔道ができていない人がいたり、それこそ経血漏れのことで悩んでいたり、それぞれに問題意識を持っていて、困っていることがわかったのです」
まずは女子中高生を対象にした情報提供の開始を決め、そのツールとしてハンドブックの製作に取りかかった。試行錯誤の末に完成したのが、A4・三つ折りの『思春期柔道ガールのエチケットガイド』。最初のページには、教え子からの相談内容を反映させた、生理のときの困りごとを9つ掲載した(図表参照)。
「全然知りませんでした」。男性指導者の反応に衝撃
ハンドブックは配布をはじめるとすぐに評判となった。 「配ってみてわかったのですが、生理も含めて女子選手が知っておきたいことを言語化してまとめたものって、それまで柔道界にはなかったんです。例えば女子選手は柔道衣の中に白いTシャツを着ることがルールで決まっているのですが、それについて記載したところ、保護者の方、とくにお母さんからとても喜ばれました。『娘が柔道を始めたけれど、道場に女性が一人もいなくてわからないことだらけだった』と」 男性指導者からも好評を得た。しかし川原さんは、その反応に驚くことのほうが多かった。ほとんどが「こんなことで女子が悩んでいるなんて知りもしなかった」というものだったからだ。 「生理の基本や生理痛などについて、理解されている男性指導者も少しはいるだろうと思っていたのですが、あまりにも知らない人が多くて衝撃を受けました。これはまずいぞと。例えば『生理でおなかが痛いから今日は練習を休みたいです』って言っても、そのつらさなんてわかってもらえないでしょうし、練習中、経血が漏れていないかが心配で何度もトイレに行っていると、サボっていると疑われるようなこともあるだろうなと」