「プレイヤー評価だけで組織で突き抜けられる?」幅を広げたい中堅の焦りを田端信太郎さんに相談した
「人に興味ない」「給料上げてくれと言ったことない」田端さんが、常に引き上げられた理由は“モノ申す技術”
田端さん: 俺、20代のとき、自分はプレイヤーとしてイケてるっていう自負はあったけど、マネージャーに向いてるとも、やりたいとも思ってなかった。 そもそも人に興味がないからね。 誰と誰が揉めてますとか、人間関係の悩みに関わるのが面倒くさいから、常に“少数精鋭”でいたいと思ってたんですよ。 天野: それはけっこう共感します。 田端さん: 少数精鋭でいるためには、「この事業は何のためにやっているか」という本質を押さえて最短距離を突いていく必要がある。 「面倒くさがり」だから、ムダに努力したくないわけ。 だから、「本質的にこのビジネスって何のためにやってるんだろう」っていうことをずっと考えてた。今風にカッコよく言えばパーパスというのかな。 「昇進させてくれ」とも「給料上げてくれ」とも、1回も言ったことない。 いつも上司に、「目的のためにはこういうふうにやったほうがいいと思います」って言ってた。 俺、最近自分のオンラインサロンとかでいろんなサラリーマンと面談するんだけど、みんな真面目で能力も低くないんです。 ただ、よく言えば素直、悪く言うと「従順」なんですよ。 天野: 「従順」はよくない言葉なんですね… 田端さん: 今どき従順でいたって、会社の上司が一生涯キャリアに責任を持ってくれるわけじゃないじゃないですか。 従順で仕事をこなしてたって、履歴書を見たときに、「この人って結局何をやれる人なんだっけ?」ってなっちゃうんですよ。
「はみ出すのが怖いんじゃないですか?」会社と社員の適切な関係とは
田端さん: 転職を重ねて3社目、4社目ぐらいから、「田端みたいなめんどくさいやつは、ある程度主張に耳を傾けないとまたすぐ転職するんじゃないか」って思われてたんじゃないかと思う。 だから、何も言わなくてもどんどん立場が広がるようなオファーがきたり、給料も上がったりするみたいなところはあったわなと。 天野: 田端さんの場合、「いつ転職したっていいんだ」っていう感覚がすごくキャリアを大きくしてるじゃないですか。 田端さん: 結果的にね。それがあると「僕は僕なりの正論を言わせてもらいます」っていうことができるわけですよ。 「それなりに聞かないと、あいつ辞めちゃうかもな」と、ある種の迫力が出てくる。 天野: わかるんですけど、「辞めちゃうかもな」って匂わせる人ってあんまり健全じゃないって思っちゃうんですよ。 田端さん: なんでよ? ずっとその会社にいたからって会社が人生に責任取ってくれるわけじゃないでしょ。 天野: そうですけど、ちょっとメンヘラっぽい態度かなと… 田端さん: それは、俺から言わせると、個人のブランド力が足りない。 仮に俺が今からどこかの会社に転職して、3カ月とか半年で辞めたとするじゃないですか。そしたら、それはその会社がイケてなかったのか? 田端がイケてなかったのか?って話じゃん。 天野: それはそうですね… 田端さん: 思考停止で“常に会社が正しい”と思ってるから、そういう発想になってくるんじゃないの? 天野: はい… 田端さん: 会社と社員ってしょせん契約の関係でしょ。 たとえば、今ブライトンにいる三笘が別のチームに移籍したからって、それって三笘がめんどくさいダメな人なの? 逆に言うと、怖いんじゃないですか? 今のままでも、一定の評価は確立してるわけじゃないですか。 会社という枠組みや、組織で正しいとされてることからはみ出たときに、成果が出せなかったとなるのが怖いんだと思う。 天野: それは…そうですね… 田端さん: そういう気持ちはわかるよ。“めちゃくちゃ人間くさい、30代っぽい悩みだな”と思う。 天野: はみ出したりすることも大事だとわかってるんですけど、一方で、いろんな人がいろんな意見を言うなかで、「とにかく前に進めなきゃいけない」という気持ちが強くて。 “いったん思考停止してでも推進させよう”っていう。それが役割だし、仕事なんじゃないかって思っている節が結構強くて。 田端さん: そういう立場の人もいないと組織としてはダメだっていうのもめちゃくちゃわかるよ。 そういう人がいてもいいんだけど、そうだとしたら、トヨタみたいなしっかりした大企業で時速100kmの車をつくろうというんじゃなくて、まったくのドベンチャーとかに行ったほうが、天野さんの“なんとしてでも風呂敷を畳む”能力っていうのは生きると思う。 天野: あ~…なるほど。 田端さん: 血気盛んな若者が立ち上げたスタートアップなんだけど、会社としてのテイをなしていないみたいなところがあるじゃないですか。 そういう会社に、「管理本部長」みたいなかたちで入るおじさんって、めちゃくちゃ大事なんですよ。 “ムチャ振りに何としてでも耐える”って言うんだったら、もっともっと意味不明な豪速球を投げてくれるところにいかないと、ストレッチがかからないんじゃないかな。