なぜヴィッセル神戸はウクライナ侵攻余波で“ロシア撤退”の元日本代表MF橋本拳人の獲得に動いたのか?
サンペールはホームの神戸市御崎公園球技場で15日に行われた、メルボルン・ビクトリー(オーストラリア)とのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフの前半途中に負傷退場。神戸市内の病院で右ひざの前十字じん帯損傷と診断され、母国スペインへ戻って25日に手術を受けた。全治までは約8ヵ月と見込まれている。 今シーズンの公式戦で唯一の白星をあげたメルボルン戦で、サンペールを失う代償を支払った。中3日で迎えた清水エスパルスとのJ1リーグ戦では、新加入の扇原貴宏(30、前横浜F・マリノス)がアンカーを務めるもスコアレスドロー。開幕連続未勝利のクラブワースト記録を、従来の「5」から4分け3敗の「7」へさらに更新した。 神戸は2020年9月から指揮を執り、昨シーズンにはクラブ最高位の3位へ躍進させた三浦淳寛前監督(47)を解任。トップチームの若手選手指導に特化したコーチだった、スペイン出身のリュイス・プラナグマ・ラモス氏(41)を暫定監督に昇格させ、さらにサンペールの穴を埋める筆頭候補として橋本に白羽の矢を立てて交渉を開始していた。 アカデミーから2012シーズンに昇格したFC東京や、武者修行のために期限付き移籍したJ2のロアッソ熊本で、橋本はボランチを主戦場としてセンターバックやサイドバックでもプレー。守備のオールラウンダーとしての素質を開花させていった。 一転して2020年7月に加入したロストフではインサイドハーフで起用され、2020-21シーズンではチーム最多タイの6ゴールをマーク。今シーズンを合わせて出場30試合で8ゴール3アシストをマークするなど、強度の高い対人守備や豊富な運動量を駆使したボール奪取に、ロシアで開花させた得点能力を融合させてきた。 三浦前監督が採用したダイヤモンド型の中盤を、リュイス暫定監督が引き継ぐかどうかは現時点でわからない。ただ、ダイヤモンド型のアンカーでも左右のMFでも、あるいはダブルボランチの一角でも、橋本の加入はサンペールの穴を十分に埋める。 難解とされるロシア語を、橋本は昨年5月の段階で「もう何でもしゃべれます」と胸を張っていた。懸命に溶け込もうとしていたロストフを離れるだけでなく、契約が期限を迎える6月30日を迎えても、情勢が正常に戻っていなければその先は流動的になる。 それでも外国籍選手、それもロシアへの経済制裁措置を取っている日本の選手がプレーするには、プレミアリーグは不確定的な要素が大きい。今後のサッカー人生をみすえ、短期間でも日本でプレーする道を選んだ橋本は、神戸を通じて決意をこう語った。 「いち早くチーム戦術、チームメイトの特徴を理解して、全力でヴィッセル神戸のために戦います」 リーグ戦でワーストタイの「3」得点にあえいでいる神戸では、FW藤本憲明(32)やU-21日本代表に招集されていたFW小田裕太郎(20)、さらにMF佐々木大樹(22)らも相次いで故障で離脱した。攻撃陣の台所事情がさらに苦しくなった状況で、守備的な中盤に関しては橋本の加入とともに、リーグ再開直前で負のスパイラルが食い止められた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)