「『治ってから出社してくれ』と無茶を言われた人も」大人の発達障害、当事者が直面する就労の困難 #今つらいあなたへ
職場にオープンにすべきか「一概には言えない」
問題なのは、自分が発達障害だとわかったとして、それを職場にオープンにすべきなのか、ということである。 私の質問に、伊藤さんも太田所長も「うーん、それは一概に言えないんですよねえ」と腕を組んで考え込んだ。 「『合理的配慮』を求めるなら、職場にオープンにすることが必須です。それは全員に知らせる必要はなく上司だけでもいい。ただそれで合理的配慮が得られるかは、実際にそういう状況になってみないとわからない。私のクライアントには『治ってから出社してくれ』と無茶を言われた人もいます」(伊藤さん) 「感覚過敏な人への合理的配慮として、コピー機から遠いところに席を配置してもらって、それだけで改善された人もいます。一方で過配慮といいますか、今まで問題なくできていた仕事まで取り上げられた方もいます」(太田所長) 冒頭のAさんは職場が福祉施設ということもあり、合理的配慮について理解があったので適切な対応をとってもらえた。しかし全員がそうとは限らない。結局、「その人の置かれている立場による」という結論に落ち着かざるを得ない。
「孤立と自尊感情の低下を避けて」当事者会が支えになることも
発達障害を治癒することはできない。しかし伊藤さんも太田所長も「生きづらさの改善に役立つ」と言うのが、グループミーティング、集いへの参加だ。
日野市を活動の場にする「東京・多摩『大人の発達障害』当事者会」は2012年から活動しており、現在の会員数は15名前後。主宰する滝口仁さんは、もともと不登校児童のフリースクールなどを運営していた。だが18歳以上でも仲間と集まれる場がほしいという声に押され、この会を設立した。会には発達障害、知的障害、その家族、福祉関係者などが集まる。 「長く生きづらさを抱える方たちを支える活動をしていて、避けるべきことが2つあると思い至りました。孤立と自尊感情の低下です。発達障害の方は学校や職場で怒られたり非難されたりした経験が多いので、この2つに陥りやすい」 当事者会では、自己紹介と近況報告を順番に話していく。職場で「合理的配慮」が得られていない悩みについて、別の当事者からうまくいったケースを聞いたり、福祉関係者からアドバイスをもらったりすることも。実は伊藤弁護士もこの会のメンバーだ。独立した際に事務所を日野市に開いたのも、この集いに参加しやすくするためという。 「やはり同じ境遇の人と話をすると安心します。発達障害の人は新しい人間関係を築くのが苦手なので、こういう場があると助かります」(伊藤さん) こうしたグループミーティングは昭和大学烏山病院のなかにもある。地域によっては社会福祉協議会のスタッフが同行してくれることもある。当事者は孤立しがちだから、まずは勇気を持って関係者に問い合わせてはどうだろうか。