京アニ裁判 精神鑑定なぜ判断分かれる?「死刑制度が結果歪める」精神科医の問題提起 #ニュースその後
2019年7月に発生した「京都アニメーション放火殺人事件」。スタジオが放火され、36人もの犠牲者(重軽傷者は32人)を出した凄惨な事件だ。京都地裁で始まった公判は22回を数えて結審し、昨年12月、検察は被告に死刑を求刑した。だが、「闇の人物のナンバーツー」などといった公判中の被告の発言はたびたび世間を当惑させてきた。判決は1月25日に言い渡されるが、精神鑑定で判断が分かれるのはなぜなのか。精神科医の岩波明氏に話を聞いた。(文・写真:ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
公判での言動「100%統合失調症」
「(公判で明かされた)被告の言動を見る限り、彼は100%統合失調症であり、それ以外は考えられません。遺族にとっては、つらく受け入れがたいことでしょう。ですが、被告には責任能力はなく、罪には問えないと考えます」 東京・世田谷区にある昭和大学附属烏山病院。病院長で精神科医の岩波明氏は開口一番、こう断じた。 「被害者にはたまったものではないですし、大勢の人が亡くなってしまったことは不幸なことです。でも、あくまでも医学的な観点での印象は『統合失調症の人が起こした珍しくない事件』です」
2019年7月18日に起きた京都アニメーション放火殺人事件。検察側の冒頭陳述などによると、当時41歳の青葉真司被告は自身が書いた小説を京アニに盗作されたと思い込む。その恨みを晴らすために埼玉から京都を訪れ、京アニスタジオの入り口に侵入してガソリンをまき、火を放った。現場で身柄を拘束され、後に殺人や殺人未遂、現住建造物等放火などの罪に問われて起訴された。 昨年9月に公判が始まると、青葉被告の発言や行動に注目が集まった。 【第3回 9月7日の公判】2018年5月、男性の訪問看護師に対して、青葉被告は包丁を振り回し、「しつこいんだよ」「殺すぞ」と脅迫。室内のパソコンが壊れていることに看護師が気づき、理由を尋ねると、被告は「公安に情報を取られないように壊した」と語った。 【第4回 9月11日の公判】2008年に起きたリーマン・ショックの前、当時の与謝野馨経済財政担当大臣に「今辞任すれば助かる」と警告メールを送付したと青葉被告は発言。政治家たちがCIA(米中央情報局)から命を狙われるとも語った。 【第7回 9月19日の公判】2017年、青葉被告は「京アニ大賞」に自身が書いた小説を応募するも落選。「裏で手を回している人がいる」「闇のナンバーツーと呼ばれる人」の圧力が原因と考えた。 【第9回 9月25日の公判】2018年11月、テレビで京アニ作品の『ツルネ』を見て「(自身の作品を)パクっている」と考えた。 公判でのこうした発言は典型的な被害妄想だと岩波氏は指摘する。 「『見られている』『監視されている』『盗聴されている』といった感覚が常にある。その上で、『いつ攻撃されるかわからない』『いつ殺されるかわからない』という考えが生まれている。そんな被害妄想が激しくなって凶悪な犯罪に結びついたと考えられます」