「『治ってから出社してくれ』と無茶を言われた人も」大人の発達障害、当事者が直面する就労の困難 #今つらいあなたへ
「社会人2、3年目の受診が多い」10代で表面化しづらい理由
いま、伊藤さんのように成人してから「発達障害」という診断を受ける人が増えている。これは一般に「大人の発達障害」と呼ばれており、厚生労働省の2016年の調査によると、発達障害と診断された人のうち、未成年が約22万5000人、成人が約24万3000人となっている。未受診の人もいるので、実数はこれより多い。 発達障害は成人してからなるものではなく、すでに子どものころから有している。それがなぜ大人になってわかるのか。昭和大学発達障害医療研究所の太田晴久所長はこう語る。 「これまで発達障害は子どものころに診断される児童精神科の分野でした。それがこの十数年で成人になってから診断される人が急増しています。その多くが知的障害を伴いません。2008年に私たちが成人向けの発達障害外来を始めると、ものすごい数の患者さんが来られるようになった。当時の精神医学の領域ではそういう対応を意識してやってないし、トレーニングも受けていなかったので、『大人の発達障害』とはなにか、というところから取り組みが始まりました」 「高校までは学校や保護者が当事者の行動を管理しています。学校で勉強ができていれば、『友だちが少ない』などは性格として問題視されてこなかったと思うんです。発達障害で高学歴な人はごく普通にいますから。それが大学、社会人となって自分自身で決定しなければならない分野が増えるに従って、とたんにいろいろなことができないことが露わになり、人との関係にも摩擦が出てくる。勉強だけでは乗り越えられない部分が出てくる。そうして社会と不適合を起こして、診察に来られる方が多いですね。就職活動を控えた大学生や、大学を出て2、3年目ぐらいの20代が多い」
ちなみに受診のきっかけは、ASDは人に連れてこられるパターン、ADHDは自分の判断で、ということが多いそうだ。 「とくに若いASDの方は自覚が薄く、悩みごとを抱えやすい。他人に相談することが苦手だからです。逆にADHDの方は自己評価がアテになりやすい」 診察には「特性」の有無だけでなく、「現在困りごとを抱えているか」も判断される。 「特性はあるけれどその特徴を生かして生活ができているのであれば、無理に診断をつける必要はない。困りごとを抱えていたら受診するのはいい考え」 診断名がついたらどうすればいいか。 「診断名やその人の状況によって違う。根本的な治療方法はありませんが、ADHDには対症療法ですけれど薬があり、特性を軽減させられます。診断名がついて当事者にとってプラスになるのは、自己理解が深まることです。ASDには聴覚過敏という症状があるんですけれど、当事者からすれば他人も自分と同じように大きなノイズとして聞こえていると思い込んでいる。他人から『過敏』と指摘されないとそれが普通だと思っているんです。しかし過敏だとわかれば対応ができる。自分はこういう特徴があるんだとわかれば、対応方法を洗練できる」