「免税事業者のままだと取引から排除されるかもしれない」ーーインボイス制度開始で予想される混乱
「影響を受けるのに気づいていない人が多い」
小泉なつみさん(39)は、エンタメ系の記事を得意とするフリーライターだ。同業のフリーランスの夫と5歳の子どもの3人で暮らしている。 「2021年の9月ぐらいに、お世話になっている税理士さんに『インボイス制度に登録したらうちはいくら納税することになりそうですか?』と聞いたんです。そうしたら、家計が立ち行かなくなる金額だったので、驚いて。このまま始まったらまずいなと思ったんです」 小泉さんは自ら呼びかけ人となって、「インボイス制度を考えるフリーランスの会」(通称「STOP!インボイス」)を立ち上げた。 制度を止めるために自分ができることはあるのかと、ネットで調べた。自治体に陳情を出したり、ネット署名を立ち上げて3万筆の署名を財務省に提出したりするなど、できることを片っ端から試した。しかし、ロビー活動で訪れた与党議員からは「反対の数をもっと集めて」「団体に反対の声明を出させろ」「メディアに取り上げられないと厳しい」と突っぱねられた。
「だったら、政治家やメディアが無視できないほど大きな反対運動が起こっていることを可視化するしかないと考えて、(2022年)10月26日に、日比谷野外音楽堂を借りて反対集会を開いたんです。これで人がまったく来なかったら反対運動が減速しちゃうんじゃないかと心配で心配で、準備中に5キロぐらい痩せました」 結果、会場に1200人を集め、配信の再生回数は1週間で1万回を超えた。NHKのニュースでも報道された。アニメやマンガなどのエンタメ業界で反対団体が立ち上がるきっかけにもなった。ネット署名は15万筆に達した。だが、「まだ足りない」と言われ、今度は30万筆を目指しているが、まだ壁は越えられない。 「個人タクシーやシルバー人材センター、農家など、影響を受ける人はものすごくたくさんいるのに、気づいていない人が多いんです」 クラウド会計ソフトのfreeeが実施したアンケートによると、20~50代の個人事業主926人のうち、「制度内容は知っていて、理解している」と回答した人はわずか14%だった。 一方で、IT人材向け人材サービス・プラットフォームを運営する企業レバテックが、フリーランスITエンジニア300人を対象に行ったアンケートでは、制度を知っている人は約7割。そのうち約6割が制度を理解していると回答した。 レバテックの事業部長・小池澪奈さんは言う。 「今、日本のIT人材は、業界全体でおよそ110万人くらいいると言われ、そのうち10%弱がフリーランスです。弊社でアンケートを実施したのは、顧客の関心が高かったためです。結果、IT人材は他業種と比較して情報感度が高く、制度に対する理解度が高いことがわかりました」 制度を理解している人のうち約7割が、反対という結果だった。