「免税事業者のままだと取引から排除されるかもしれない」ーーインボイス制度開始で予想される混乱
増税分は価格に転嫁せざるを得ない
出版業界も似た構造をもつ。73の小規模な出版社が加盟する日本出版者協議会(出版協)会長の水野久さん(68)は言う。 「出版社はフリーの方とのお付き合いが多い業種ですが、制作する本の内容にかかわるので、著者やライターが免税事業者だからといって課税事業者に替えようと考えていないところが大半だと思います。ただ、免税事業者の方に今まで通りの原稿料などを支払うと、出版社が支払う消費税が増えてしまいます。出版協に加盟している出版社は、社員1人から数人の規模がほとんど。その負担を吸収する余力はないだろうと思います」 制度が本格的に始まれば、インボイスがないと「仕入税額控除」ができなくなる。インボイスは、新しい規格の請求書や領収書のことで、課税事業者のみが発行できる。仕入税額控除とは、支払う消費税を計算する際に、課税売上から課税仕入を引くことだ。消費税は「課税売上×税率-課税仕入×税率」で計算する。免税事業者に仕事を依頼した場合、その報酬は、インボイスがないため、「課税売上」から差し引くことができない。結果、出版社の消費税の納税額が増えてしまう。 「今、紙と流通の値上がりで、コミックと文庫を中心に、出版物の値段が上がってきています。そこでインボイス制度が実施になれば、さらに価格に転嫁することを考えざるを得ないでしょう」
フリーライターや著者たちへの周知も負担になっている。 「まだ情報が行き渡っていないので、出版社が一人一人に説明しなければならない。すでに話を進めている出版社に聞いてみると、インボイス制度とは何かという説明から始めなければならず、時間がかかっているそうです。潤沢に仕事をしていなさそうな方にも課税事業者になってほしいとお願いする筋合いはないですし、こんなこと、税務署のやる仕事であって、こちらのやる仕事ではないですよ」 水野さんは、自身も晩成書房という出版社を経営する。社員は、水野さんを含めて2人。年間10点ほどの単行本と雑誌2冊を発行しながら、事務や経理業務もすべて自分たちでこなす。 「今お付き合いをしている著者やフリーランスの方は数十人ほどですが、既刊本も考えると莫大な人数になります。その洗い出しをどういうふうにやるか考えるだけでも負担が大きい」