「免税事業者のままだと取引から排除されるかもしれない」ーーインボイス制度開始で予想される混乱
元請けにトラブル回避を要請しているが……
一般に「消費税を納めるのは消費者」と思われているが、消費税を納めるのは「事業者」である。事業者(売り手)は売ったモノやサービスの額に応じて消費税を払わなければならないので、その分を含めて販売価格を設定し、取引先(買い手)に請求する。 中村さんの場合で言えば、中村さんはサービスの売り手で、A社が買い手だ。A社は、メーカーとの関係では売り手となり、メーカーが買い手となる。メーカーは住宅機器をアフターサービス付きで消費者(顧客)に販売する。 という具合に、ひとつのモノやサービスが消費者に届くまでに、何段階かの商取引があいだに挟まれることはめずらしくないが、その都度消費税が発生する。買い手の負担が累積しないように「仕入税額控除」という仕組みが組み込まれている。この仕組みについては後ほど説明しよう。 建設業界は、発注者から元請け、二次請け、三次請け……一人親方、というように、取引が何重にもわたることが多い。 約11万人の建設業従事者が加盟する東京土建一般労働組合の山本高明さんは言う。 「インボイス制度の導入によって、二次請け・三次請け・四次請けなどのあいだでトラブルが起きることは予想されていました。ですから私たちは、元請けのゼネコンや大企業に『トラブルを回避できるような対応を考えてください』という要請をしてきました。免税の下請け事業者が課税事業者になることによって減る手取りの分まで、元請けが発注価格に反映させてくれるのであれば問題ないのですが、なかなか簡単にはいかないですよ」
東京土建の組合員には、中村さんのような一人親方(個人事業主)もいれば、二次請け、三次請けを担う小規模な企業の事業主もいる。 「うちの組合に入っている小規模事業者は、社員を雇っているところはあまりなく、信頼関係がある一人親方に発注して事業を回しています。そこで、一人親方にインボイス発行事業者になってほしいと言えば、免税事業者のままでもいいという別の会社の仕事に乗り換えられ、仕事が回らなくなる心配も出てくる。困っているのは一人親方だけではないんですよ」