これは、たしかに特定が難しい…不意をついてやってくる「火山で起こる津波」を起こす6つの要因と、あまりに「広範囲な影響」
マグマ水蒸気爆発に伴う津波
マグマ水蒸気爆発の際に、爆発の圧力により水面が押しのけられる、あるいは持ち上げられることで津波が発生する(図「マグマ水蒸気爆発」)。 伊豆諸島の明神礁では、1952~1953年に浅海でマグマ水蒸気爆発を繰り返した際に、八丈島や静岡県御前崎、神奈川県城ヶ島の潮位計で津波が観測された。この観測データの解析により、津波は爆発により海水に瞬間的な圧力(インパルス)が与えられたことにより発生したと考えられている。マグマ水蒸気爆発ではウォータードームが形成され、海面が大きく変動する場合もある。 米国の水爆実験等にもとづく知見によると、このメカニズムの場合、津波の波高は爆発の深度(水深)と爆発のエネルギーにより決まる。
地球を周回する大気波動に起因する津波
大規模な爆発的噴火では、大気を伝わる圧力の波(大気波動)が発生することがある。このような大気波動と海洋との共鳴により海洋波の振幅が増大するという、「あびき」などの気象津波と類似のメカニズムにより津波が発生する(図「爆発的噴火により生じる大気波動」)。 2022年のフンガ火山の大規模噴火の際に、日本を含む遠地で観測された津波がこのメカニズムによるものだ。 2022年1月15日20~21時頃(日本時間)、フンガ火山噴火の直後に日本列島では南東から北西にかけて気圧変化の波(ラム波)が通り抜け、その後30分~1時間程度遅れて数十cmから最大1m超の津波が各地で観測された。通常の津波伝搬を仮定した予測よりも2時間半から3時間程度早い津波到着となり、日本の各地で混乱が生じた。 先のクラカタウ火山の記事で取り上げたように、1883年のクラカタウ火山噴火の際にも、海洋を伝わるだけでは説明できないほど短時間で到着した遠地津波が世界各地で観測され、フンガ火山噴火と同様のメカニズムにより津波が発生したと考えられている。事例は少ないが、爆発的噴火により強い大気波動が発生した際にこのタイプの津波への注意が必要だ。 現在、日本の気象庁は、噴煙高度が15kmに達するような噴火が発生した場合、一律に津波に関する情報を発信するようになったが、この規模の噴火が必ずしも大気波動を伴うわけではないことには注意する必要がある。 * * * このように、陸域から遠く離れたところからやってくる津波の原因にも、さまざまなものがあります。いま、自分の立っている場所で大きな地震や火山活動がみとめられなくても、陸域に大きな被害を及ぼす場合があります。 続いては、江戸時代に、今回の解説で取り上げられた「火山性流れ」の海への流入による津波で大きな被害が生じた、渡島大島の噴火活動を見てみましょう。 島はどうしてできるのか 火山噴火と、島の誕生から消滅まで 島……その創造と破壊から、地球の姿が見えてくる
前野 深(東京大学地震研究所准教授)
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