ストレスをためている若手社員に原因を聞いた…「ロールモデルがいない」「スキルが身につかない」と訴える理由
産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
精神科産業医として45年以上のキャリアを持つ夏目誠さんが、これまで経験してきたケースを基に、ストレスへの気づきとさまざまな対処法を紹介します。 【図表】うつ病にならないためにやめておきたい七つのこと
「いまどきの若者の気持ちが分からない」「飲みニケーションの時代じゃないから、どうしようもない」「俺たちと違うなぁ」……。大企業の精神科産業医をしていて、管理職研修の席や面談でこのようなボヤキをよく聞きます。当の若手社員の面談もしていますが、40年以上の精神科産業医の経験の中で、近年の特徴として気づいたことがあります。不満の原因として、「ロールモデルがいない」「スキルが身につかない」「将来に希望がない」ことを口にする方が少なくないことです。
入社半年、先輩や上司が疲れて笑顔がない
会社で行うストレスチェックの結果、「高ストレス者」面談を希望した24歳の原田太郎さん(仮名)がやってきました。 産業医 : 精神科産業医の夏目です。よろしく。 原田さん: 営業部の原田です。高ストレスと判定されて、思い当たることがあるので面談を希望しました。 産業医 : 結果を見ると、心身の訴えが多く、職場サポートが低い状態にあると出ています。職場や仕事で、何か悩みがあるのですか? 原田さん: 入社から半年して会社のことが分かりかけてきました。なんと言えばいいのか、先輩や上司を見ていて活気がないように思います。 産業医 : 活気が? 原田さん: 仕事に追われて、お疲れで、笑顔がありません。 産業医 : 疲れている。
目指したいような人が部内にいない
原田さん: 学生時代は運動部の活動に熱中し、憧れてあの先輩のようになりたいと思うようなモデルがいました。 産業医 : 学生時代ですね。 原田さん: 先輩の助言も役に立って、勉強も就活もうまくいきました。そういうロールモデルになるような先輩や上司がいないんですよ。なんだか仕事に熱がはいらなくて……。 産業医 : なるほど。 原田さん: どうすればよいでしょうか? 産業医 : 目指したい人は社内でなくても、社外の人や部活の先輩でもいいのではありませんか。 原田さん: 確かに社内で探さなくてもいいのかもしれません。 産業医の立場で様々な人と接していますが、いわゆる大企業に就職しても、原田さんと同じような悩みを持つ若者は少なくありません。若者は、「コスパ(コストパフォーマンス)」「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉をよく使うようで、コストや時間に見合う成果や満足を測ろうとします。会社にロールモデルがいないと感じる背景には、そういう若手の感覚と職場の上司、先輩の態度が合わない面もあるのかもしれません。