そりゃ、1つくらいは「ミス」するだろう…「めったに起こらないはず」の複製エラーが起きてしまう「意外に科学的でない」要因
美しい二重らせん構造に隠された「生命最大の謎」を解く! DNAは、生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、いわゆる生物の〈設計図〉の一つといわれています。DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、その情報によって生命の維持に必須なタンパク質やRNAが作られます。それゆえに、DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。 【画像】DNAの複製エラーが見過ごされ、「突然変異」として固定されるしくみ しかし、ほんとうに生物の設計図という役割しか担っていないのでしょうか。そもそもDNAは、いったいどのようにしてこの地球上に誕生したのでしょうか。 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。その本質を探究する極上の生命科学ミステリー『DNAとはなんだろう』から、DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。 *本記事は、講談社・ブルーバックス『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』から、内容を再構成・再編集してお届けします。
生物に起こる突然変異の代表的なタイプ
突然変異、すなわち「塩基配列の変化」には、さまざまなタイプがある。 最もひんぱんに起こると考えられている突然変異は、1つの塩基が別の塩基に変化する「置換」である(図「突然変異の種類」)。生物に起こる、ほとんどの突然変異がこれにあたると考えられる。 というのも、突然変異の主要な原因である「複製エラー」は、DNAポリメラーゼが塩基対を形成する際に正しくない塩基をもつヌクレオチドをときどき間違って置いてしまい、そのままホスホジエステル結合をつくってしまうからである。 図「突然変異の種類」:「置換」以外にも、複製される際にある塩基対や一定の長さの塩基配列が失れ、その結果としてDNAが短くなってしまう「B 欠失」、欠失とは逆に、新たな塩基対ができたり、一定の長さの塩基配列が入り込んだりしてDNAが長くなってしまう「C 挿入」、塩基配列が逆向きになってしまう「D 逆位」のほか、塩基配列が染色体の別の場所に移ってしまう「転座」なども知られている。 文字どおりの「エラー」であり、文章を書く際に、本来の漢字とは間違った漢字を使ってしまう誤用がこれにあたると思えばよい。ワープロソフトがこれだけ普及する現代では、さしずめ「変換ミス」といったところだ。 複製エラーは、そのほとんどが一時的なもので、通常はすぐに修復される。ところが、それが修復されないまま次の複製を迎えてしまうと厄介な事態が生じる。 というのも、この間違った塩基のペアとしてDNAポリメラーゼによって次に置かれ、新たに対面する塩基は、通常“正しいもの”が入り、ワトソン・クリック塩基対をつくるはずで、その時点で正しい塩基対として固定されてしまうからである。そうなると、もはや修復の対象にはならなくなる。こうして、後戻りができない「半永久的に変わった」塩基対が生じることになるのだ。