「学校でも社会でも、親からも褒められてこなかった子が多いです」――日本初の少年院「国際科」で学ぶ、外国ルーツの子どもたち
そう語る宮崎教授のプロジェクトだが、法務省の中でも見解が分かれる。 「言語学習より反省が先だろう、日本語教育という〝サービス〟を加害者に対して行うことは、被害者にとって耐えられないだろうという意見が寄せられることもあります」 もちろん、犯した罪を償うことは必要だ。しかし少年たちは、いずれ社会復帰する。その彼らに日本語と、生きていくための常識を教えることは、将来的な社会のリスクを減らすことにつながる……宮崎教授はそう考えている。
親代わりの教官に習った言葉で
「国際科」はこの日最後の授業、スピーチの時間を迎えていた。小学生向けの新聞の記事を各自が読み上げ、それについて感想を言い合う。 例えば「鳥インフルエンザによる卵不足でマクドナルドの〝てりたま〟が販売中止に」という記事を読んだ者は、ひと言ひと言、拙いながらもこう話した。 「ウクライナもコロナもですが、世界では大変なことが起きているのに、ここではなかなか感じられません。少年院でもときどき食事に卵が出ます。でもそれは当たり前じゃないのです。ひとつひとつを大事に、社会に出たら感謝して生きたいです」
ある死刑確定事件の再審が決まったという記事も題材になった。少年たちにとってはセンシティブな話題かもしれないが、死刑制度について意見を出し合う。 「悪い人が増えないために必要だと思います」 「被害者のことを考えるべきです」 子ども向けとはいえ新聞を読みこなし、考えたことを話す。ほんの1年前後で、彼らの日本語力は飛躍的にアップする。「日本語教師ではないから、スマートにはいかないけれど」と話す教官たちの工夫と熱意が、少年たちを成長させている。 教官として最も大事にしていることはなんだろう。屋代さんに尋ねた。 「親代わりになりたいな、と思っています」 彼らの犯罪は許されないけれど、と前置きをして、続ける。 「もし親だったら、彼らがもう二度と失敗しないように、どう接して、どう声をかけるのか。それはいつも考えています」