「学校でも社会でも、親からも褒められてこなかった子が多いです」――日本初の少年院「国際科」で学ぶ、外国ルーツの子どもたち
「小学生の頃に帰してやりたい。そう意識して指導しています」 それが屋代さんたち教官の思いだ。彼らが子どもの頃に、親や学校や社会から与えられなかった日本語力や社会常識、そして自己肯定感を、ここにいるうちに身につけてほしい。そう考えている。
しかし、だ。 ここは矯正施設。在院者ひとりひとりが起こした事件には、被害者がいる。日本語を学ぶよりもまず、罪と向き合うことが必要なのではないだろうか。そんな疑問も感じるが、反省や謝罪する心もまた、日本語力が上達してくるうちに芽生えてくるのだと、久里浜少年院統括専門官の阿部容司さん(51)は言う。
「毎日、日本語で日記を書くことを義務づけているのですが、はじめはたどたどしかったり、わずかな文章だけだったり。でも、書く力がついてくると内容が変わってくるんです。事件のことや被害者についても書き、内省の気持ちが表れるようになってきます」 また被害者の立場で考えたり、犯罪行動を抑制したりするためのプログラムもある。これらは少年院に共通して導入されている「特定生活指導」というが、「国際科」では日本語や社会規範に加えて、こちらの教育にも力を入れている。
加害者に日本語教育という「サービス」が必要なのか
久里浜少年院や法務省と連携して、外国にルーツを持つ少年院在院者の教育について調査を進めているのが、早稲田大学大学院日本語教育研究科の宮崎里司教授だ。 宮崎さんは2020年から2024年まで研究と現場へのフィードバックを重ね、その後は外国ルーツの少年院入院者への教育プログラムや、少年院勤務の法務教官に対する研修プログラムを策定予定という。研究の源になっているのは、10年ほど住んだオーストラリアでの経験だ。 「メルボルンで暮らしていましたが、移民が非常に多く、お互い文化が違うことが当たり前という土地柄です」 移民の英語教育には、オーストラリア政府が予算を充てるほど熱心なのだという。 「言葉と社会のルールをしっかり覚えてもらえば、健全な市民になり、納税者になります。国にリターンがあるんです。だから語学教育に力を入れるんです」