OpenAI創業メンバーとブルネロ・クチネリがAIに託した「哲人思考」
AIによってクチネリの基本方針が変わることはない
それではユニバーサル図書館の蔵書データに活用するのか。会場からの質問に、壇上のクチネリは「書名はインターネット上で検索できる。そのうえで図書館まで足を運んでテキストを読んでもらいたい」と答える。紙の匂いもかぎながら、作者とダイレクトにコミュニケーションを理想とする姿は崩せないのだ。つまり、AIによってクチネリの基本方針が変わることはない。基本方針をより現実のものにするために世界を広げる道を選んでいる。 Solomei AIでは、これまでの記憶に残るシーンや前述した企業広告で使われたソロメオの風景が手で描かれている。その風景がグーグルマップのように画面以上に大きく広がっている。ページがない。つまり階層構造ではないのが特徴だ。 一般的に、チャット型AIは問いに対して膨大な情報のなかから対応するものを引き出してくる。そのため玉石混交となる。一方のSolomei AIはブルネロ・クチネリの世界観がベースになっているため、間違っていたり、偽の情報が混じることはない。 今年5月、ソロメオを訪ねたリード・ホフマンは、準備中の新しいサイトを見てメモ帳を取り出し、細かい文字で詳細なメモをとり、「これまでに目にしたことのないものだ。早く世に公表すべきだ」とアドバイスしたという。哲学を学んだ彼がソロメオの風景を知り、あそこが世界に貢献する知の郷になりうると夢想したと考えても決しておかしくない。 安西洋之◎ミラノと東京を拠点とした文化+ビジネスプランナー。ビジネスや商品のローカリゼーションやデザインマネジメント領域を得意とする。文化とビジネスの狭間をテーマにした執筆や講演も行う。意味のイノベーションのエバンジェリスト。最新著書に中野香織との共著『新・ラグジュアリー 文化が生み出す経済 10の講義』(クロスメディア)がある。
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