92歳の弁護士・手塚正枝さん「朝ドラモデル・三淵嘉子さんの後輩として法曹界に。4人の子を産み家事育児をしながら、細く長く弁護士を67年間」
入室前には「両親講座」を受け、母親だけが頑張るのではなく、家族で協力し合うというのも先生の方針でした。このような〈親子〉を軸にした教育理論は難聴児に限らず、すべての子どもの教育に通じるもの。ぜひここでお世話になろうと思い、長女は幼稚園と並行して、週2回、「母と子の教室」に通うようになりました。 親としてつらいのは、「音がほとんど聞こえない」のがどういう状態なのかわからないことです。単に小さく聞こえるものと思っていたら、それだけではなく、音が歪んで聞こえているんだとか。そうと知ったときは驚きました。 72年には金山先生が教育の一環として「親の会」をつくることを提案され、多くの親の賛同を得て「母と子の教室 親の会」が設立。微力ながら私は会長になりました。 ボランティアの方を含めた尽力による「おたより」の発行、勉強会の開催、年に2度の合宿、毎月の幹事会、年1回の総会、のすべてを会費で運営。一仕事終えた後の懇親会では、子どもについての相談や情報交換、家庭の愚痴まで飛び出して楽しいものでした。 合宿には医局の先生方が来てくださり、普段は教室に通えない遠方の会員も参加して、夜遅くまで語り合いました。 子どものハンディキャップを代わってやることはできません。でも苦しみのぶんだけ、ひとつひとつの出来事に喜びを感じ、先生や親御さんと心を開いて語り合えたように思います。
「母と子の教室」は現在、耳の不自由な当事者とその家族、専門家の三者で力を合わせる一般社団法人「トライアングル金山記念聴覚障害児教育財団」へと発展。 最近まで長女は地方公務員として働く傍ら、トライアングルの仕事にも関わっていました。自分の経験を活かして活動していることが、親としてなにより嬉しいですね。 長女が小学1年生のとき、自治体の広報紙で「家庭文庫を開いたグループに、図書館の本を貸し出します」という知らせを読みました。 家庭文庫は、個人が自宅と蔵書を開放して、近所の子どもたちに本を貸し出す活動。耳からの情報量が少ない長女にはたくさん本を読ませたかったので、家庭文庫をやってみたいと思うようになりました。 PTAで話すと大勢のお母さんが賛同してくれて、受付などを手伝ってくれることに。場所は自宅の庭に据えたプレハブ。近所に住む友人が手放すというので、もらい受けたのです。こうしてできた「みどり文庫」は、毎週水曜の放課後に開かれるようになりました。 みどり文庫のために毎月図書館に行って、借りられる限界の100冊まで本を借りてくださる熱心なお母さんもいて、私ひとりではとても続けられなかったと思います。 「子どもは社会が育てる」ことを教えてもらった大切な時間でしたし、周囲に長女のことを知ってもらういい機会にもなりました。 このときのお母さん仲間とはいまでも週に1度、わが家で女子会を開くほど長いお付き合いが続いています。ランチの前に、まず全員でお習字をするのですよ(笑)。達筆だった母の字には、いまだ敵いません。
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