フードエッセイスト平野紗季子「たこやきって、出汁のシュークリームなのかも」味の記憶にラベルを貼っていくこと
――「ビリヤニは風」、「菓子からしたら私はゴジラ」といったように、平野さんから生み出される文章は独特かつ、味が立体的に想像できる唯一無二のものですね。 平野さん:ありがとうございます。個性的な表現を目指しているわけでは決してなく、食べた味を思い出せなくなっちゃうのが悲しいんです。シフォンケーキもはんぺんも「ふわふわ」と表現することが多いですが、同じ「ふわふわ」の枠に入れてしまうと全部一緒になってしまう。 書くことは、口に入れたら消えていってしまう食に対して、それがどんなものであったのか覚えておくためにラベルを貼っていく作業に近いんです。だから自然とキャラ立ちするような言葉で綴るようになっていきました。 ――味の記憶にラベルを貼っていくという作業は、ご著書で書かれている「世界を理解したい。そのための手段が食べ物だったのだ」と近い感覚でしょうか。 平野さん:そうですね。以前、この本を読んでくださったとあるアーティストの方に「平野さんは創造性をもって食事をしている」と言っていただいたことがあったんです。「食べることって消費だけではなく創造性をともなう行為であって、平野さんは食を通して世界を理解しようとしているんじゃないか」って。その言葉はとても嬉しかったですね。 誰しもがそれぞれの視点から世界を見ていると思いますが、固定観念や既存の事実からではなく、自分の内側からものごとを理解できたときのうれしさは特別なものがあるなあと思います。それを私は食を通じてやっているのかもしれません。たこやきひとつとっても、「これって出汁のシュークリームなのかも」と気づいたとき、自分なりに腑に落ちて、ぱあっと明るい心地になる。またひとつ世界のことがわかった、というような気持ちになるんです。
【写真】平野さんは大の紅茶好き。静岡県沼津市にて紅茶を中心とした茶葉の卸販売と教室を行う紅茶屋「teteria」大西進さんとは平野さんのPodcast「味な副音声」で紅茶談義を交わしたり、イベントを開催することも。