フードエッセイスト平野紗季子「たこやきって、出汁のシュークリームなのかも」味の記憶にラベルを貼っていくこと
食べると消えてしまう食に正面から対峙し、味を書き残していくことをライフワークにしているフードエッセイストの平野紗季子さん。好きを原動力に生きていくために必要な意識の持ち方を教えてもらいました。 フードエッセイスト平野紗季子さんインタビュー(写真)
食を通じて世界を理解していくということ
――小学生の頃から食日記を書き始め、今はフードエッセイストとして活躍されています。好きなことを仕事にし続けていくのは、喜びもつらさもあるのではないでしょうか。 平野さん:文筆業を始めたのとほぼ同じタイミングで会社に就職したので、ダブルワーク的なつらさは存分にありました。エッセイストとしても社会人としても一年目だったのでどちらの仕事も慣れないことばかりで、自分は間違った選択をしているのではないかと思うこともありました。 でも、好きなことや、やりたいことをしていても、その過程で絶対に嫌なことって発生しますよね。楽しいことだけしかない仕事なんてまずないはずです。好きなことをしながら嫌なことに向き合うのと、興味ないことをしながら嫌なことに向き合うのでは、前者のほうが負担が少ないなと思います。だから好きなことを仕事にするからこそのつらさ、というのはあまり感じないタイプかもしれません。 今は、お菓子のブランドの会社を作って代表業もしているので、新しい味わいの大変さに直面することも増えました。社員もいるので責任の重みも感じますし。とはいえ、自分がやりたくて始めたのだ、このお菓子が好きだからたくさんの人に届けたいのだ、というモチベーションに支えられています。
平野さん:私は基本的に、自然と次にやりたいことが出てくるタイプなんです。年表を作るかのごとく、◯歳になったらこんなことをするという人生プランを決め込む方もいて、それもかっこいいなと思うのですが、目標に向かって邁進する人生はなかなかハードモードになっちゃう気がして、私には向いてないなと思います。 お菓子のブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」を作ったのも、お菓子屋さんになりたい!と思って始めたわけではなく、自分が食べてみたいけどこの世に存在しないお菓子を、自分の好きなパティシエさんに作ってもらいたかったから。せっかく作ってもらうならほかの人にも共有したい。でもいつまでも部活や趣味みたいな感じだと続けられないな、と気づいて、続けるために会社化するか……みたいな流れで社長になりました。気がついたらお菓子屋さんになっていた感じです。 【写真】「レーズンは嫌いだけれどレーズンサンドを食べてみたい」という平野紗季子さんの願いから生まれたスイーツブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」。「Equal」、「PATH」オーナーパティシエの後藤裕一さんと、アートディレクター田部井美奈さんを迎え2018年にスタート。