経済日本を滅ぼそうとしているのは経済エリート? 今の日本に必要な「時代精神」について考える
遠い他者に向かって
ギザのピラミッドを上空から見たことがある。砂漠の大地への人類の知の刻印は美しかった。 となりに展開するカイロの街は、人類の生活が砂漠を汚すかに見えた。 そのとき僕は、古代エジプト人は、未来の人間が大空から見ることを予測していたのではないかという気がした。古代エジプト人は絵と象形文字によって膨大な物語を記録したが、彼らは「遠い他者」に向かって発信したのではないか。 以来、僕は「遠い他者」という言葉を胸に抱いて生きている。 人間は他者を求める。しかし近い他者には疲れる。利害が絡み、愛憎に囚われる。人間には遠い他者が必要だ。長いあいだ文章を書いてきたが、それも遠い他者に向かっていたのだろう。 Yahoo!ニュース「THE PAGE」に書きはじめて8年。最初は何回か建築について書いてくれということだったが、途中から、どんなテーマでもいいということで、ニュースエッセイのようなものを書きつづけることとなった。それがこれほど続くとは思わなかった。 次第に政治的な発言が多くなり、誹謗中傷的なコメントを受けることもあった。もともと「文化ナショナリスト」といわれ右寄りを自認していたが、多くの中国人留学生を育てたので、親中派だなどという人も出てきた。自分も揺れているが、世の中がもっと揺れ動いている。 あるとき友人にいわれた。「もっと若者が元気になるようなことを書け。難しい言葉を使いすぎる」 たくさんの古典を読んできたので、自然に難しい言葉を使うクセがついていたようだ。若い人の言語感覚とはギャップがあることを意識せざるをえない。この辺で筆を置く、いやキーボードを手放す。 拙文を読んで下さった多くの方々と、編集の労をとっていただいた飯田和樹さんに謝意を表したい。